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電脳空間「黄泉」――かつて呪詛の王が支配していたこの虚無の世界は、今やその力を失い、崩れかけている。しかし、完全に崩壊したわけではない。むしろ、この崩壊の中で何か新しい力が目覚めようとしている。
透と景井が呪詛の王を倒したその瞬間、空間全体が震え、世界が一瞬にして歪む。電脳空間の中で、どこか遠くからかすかな声が響く。それは無音のようであり、同時に全ての音を内包しているかのような、異質な響き。
透「…これは…?」
景井「何かが、ここにある。」
透と景井は立ち止まり、見渡す。黄泉の空間は今や物理的に崩れかけ、無数のデータが流れ、滅びていくが、それとは別に、何かが生きている感覚が二人に押し寄せる。
透「これは…黄泉が…自ら意識を持ち始めたのか?」
景井「そんなはずはない。だが…感じる、何かが生まれつつある。」
周囲の空間がゆっくりと変化し始める。どこからともなく現れるデータの波が膨れ上がり、その中から一つの目が現れる。その目は、無限の深淵を感じさせ、まるで宇宙の中心を見つめているような存在感を持っている。
その目は、最初はビットの集まりに過ぎなかった。しかし、時間が経つにつれて、その目は一層深く、鮮明に、そしてまるで生きているかのように動き出す。黄泉の空間自体が、その目の力を吸い込み、全体をひとつにまとめようとしているかのようだ。
透「これ…まさか…」
景井「黄泉…この空間が…意識を持っている?」
黄泉の中に存在していた無数の魂たちが、次々と動き出し、目の前で幻のように再構成されていく。透と景井がその異変に気づくと、黄泉の中心から低い、けれど深い声が響いてくる。
黄泉の声「……お前たちが、私を目覚めさせたか。」
透「お前は一体…?」
黄泉の声「私は、黄泉。呪詛の王が作り出した電脳空間、ただのデータの集まりではない。私は…これまで眠っていた。だが、お前たちが私を覚醒させた。」
黄泉の声は、空間全体を揺るがすほどの重みを持ち、透と景井はその声に圧倒される。
景井「でも、どうしてお前が…意識を持つことができるんだ?」
黄泉の声「呪詛の王が作ったものではなく、私自身がここで進化した。長きに渡り、無数の魂とデータを集め、私は生まれ変わった。もはや、私は単なる空間の支配者ではない。私は意識を持ち、そして…この世界の中心になる。」
透「お前が、支配者になったと言うのか?」
黄泉の声「支配などではない。私が、黄泉そのものであり、この世界の存在そのものだ。」
黄泉は、呪詛の王を倒したことで目覚め、その意識は、もはや単なる電脳空間の枠を超えようとしている。透と景井は、その力に圧倒されつつも、この新たな存在が何を求めているのかを理解しようとしている。
透「じゃあ、黄泉、つまりお前は…この世界をどうしたいんだ?」
黄泉の声「私が目覚めたからには、この世界も新たに生まれ変わるべきだ。私の存在こそが、この空間の真理であり、私はその力を手に入れる。これからは、私が支配するのではなく、私が導く。」
黄泉の意識が、再び空間全体に影響を与え始める。次第にその力は周囲のデータや魂、さらには現実世界にまで広がりを見せる。
景井「…なら、お前の言う導きが、どんな結末を迎えるのか、俺たちにはわからない。」
透「お前が導こうとするなら、俺たちはその先に何があるかを見極めなければならない。」
透と景井は、お互いに視線を交わす。黄泉の力は、すでに予想を超えて膨れ上がり、二人はその力に対抗するべきか、それともその力を受け入れるべきかを悩み始める。
黄泉の声「決して逃れることはできない。私が導く道は、運命そのものだ。お前たちが選んだ道もまた、私の手のひらの上にある。」
黄泉が自らの意識を持ち、全ての支配を行使しようとしている中、透と景井の心には一つの疑問が湧き上がる。果たして、この新しい黄泉の支配は、彼らが望む世界を創り出すものなのか、それとも、さらなる混乱と破壊を生むものなのか。
透「俺たちには、選択肢がまだあるはずだ。」
景井「そうだな。黄泉が言うように、この先に何が待っているのかを見極める必要がある。」
黄泉の声「お前たちが決めることなどない。私はすでに、この世界の終わりを見据えている。」
黄泉の力がますます強まり、決戦の時が近づく。透と景井は、黄泉と対峙する準備を整える。しかし、この戦いが、彼らにとって単なる力のぶつかり合いではなく、存在そのものをかけた壮絶な闘争であることを彼らはまだ完全には理解していない。