コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
同時刻 時空屋向かいのマンション305号
時空屋に出入りする人間の詳細なデータは、瞬時に亀山のパソコン上に転送されていった。
遠巻きに、缶コーヒーをすすりながら、その光景を眺めていた柿崎は『国民総管理社会』の実体を思い知らされることとなった。
生年月日はもちろんのこと、学歴や職歴、通販利用の詳細や、SNSでの政治的発言までもが、事細かに個人情報として蓄積されている。
目の前の亀山は、職務の遂行として、個人情報を閲覧しているに過ぎない。
しかし、その行為には何の疑念も感じられず、柿崎はそれこそが恐ろしいのだと思った。
亀山が、
「出入りする多くは、東京サイケデリッククリエイターズのホームを閲覧、もしくは会員ですね。気になる人物はこの男」
パソコン画面には、鷹野の横顔が映し出されていた。
柿崎が亀山の背後へ近付くと、窓辺の大野も近寄りながら言った。
「え、どいつですかねえ、ちょっと見せて」
「バカ!お前はまだそこで見張ってろ!」
柿崎の一喝に、大野はうな垂れながらも所定の持ち場へと戻って行った。
亀山は、気にも止めずに鷹野の詳細なデータを拡大した。
柿崎が腕組みしながら言った。
「こいつ、鳥海と組んでたやつだろ? 』
「そうですね」
「グルだったってのか?」
「いや…あっちから接近してきた…そう見るのが妥当でしょうね。少なくとも東京ジェノサイド以前、この男から発信されたデータを見る限りではの話ですけれど」
「よし、鳥海にあたってみるか、あいつは今どこにいる?」
「あ、待ってくださいね…」
亀山のパソコン画面上部のワイプに、地図上に光る点が現れた。
「ええっと、新宿エリア地下射撃訓練所ですね」
その時、玄関の鉄製の扉をノックする音が聞こえた。
柿崎は、懐から銃を引き抜いて立ち上がった。
亀山と大野も同様に銃を構えた。
見えない敵の恐怖に大野は身を硬くし、亀山は覚悟を決めた。
しばらくすると、扉の外から声が聞こえた。
『おお~い、来ちゃったよぉ』
それは神代の声だった。
扉が開くと同時に、室内になだれ込む神代の息は酒臭く、高揚した顔つきに柿崎は呆れた。
「神代さん、いい加減にしてくれよ」
「だってさ、暗くってわかんないじゃん」
「何が!?」
「あれ、チャイムわかんないじゃん。それよりこれ、調べてってさ」
「誰が?」
「上が」
柿崎は、神代の主語がない会話と、無駄な時間の浪費にイラついた。
大野は、神代からUSBメモリを受け取って、
「だいぶ呑みましたねえ。羨ましい」
と言うと、柿崎に目配せして笑った。
柿崎は、わざと聞こえるくらいの舌打ちをして窓辺へと向かった。
神代と会話するくらいなら、双眼鏡片手に見張りをしている方がマシだと思ったからだ。
亀山は、USBメモリを大野から手渡されると、早速パソコンに繋いでファイルを開いた。