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雪の思い出 二





……………

「死にたい」

そう呟くのは何回目だっただろうか。





大分時間が経った今でも、あの日の事が夢か現実か分からない。

否、分からないのではない。分かりたくないだけなのだ。


事実として受け止めれば死んでしまう。

兄に捨てられたなんて分かれば哀しさに耐えれず死んでしまう。


それほどまでに、兄を愛してしまっているということに今更気付いても、もうどうしようもなかった。





——寒い。

あの凍えるような寒さが襲ってくるのはいつも突然だ。


あの日の記憶を思い出せば、もう終わり。

震えが止まらなくなって、息も上手く出来ずに、

ただ、自傷に陥って時間が過ぎるのを待つだけ。


苦しくて、辛いのに、何も出来ない自分が嫌になって、

床や枕元に転がってる刃を手に取り自分の体に当て滑らせるだけ。

兄の言葉を自分の脳と心に刻んで、

黒い感情の籠った涙を流すだけ。


そうして時間が過ぎるのを待つ事しか、出来なかった。





こんなに醜くなったのはアイツのせいで、

だから俺を捨てたアイツが嫌いで、憎んでいて、………


優しかった兄ちゃんは全部嘘だったと思うと自分が生きていた意味が分からなくなって、


何をどうすれば今でも笑えていたのかどれだけ考えても、出るのは涙だけで、


色々な感情が混ざって真っ黒に濁って、

いつしか幻想に縋り付いて生きていた。


もうこんな生活を繰り返したくはなくて

「死にたい」と泣くくせに、幻想が現実になるんじゃないかなんて愚かな考えが頭を過るから、

結局死ねずにまた泣くだけ。


この繰り返しが辛くて、辛くて、辛いから、弱々しくながらも、助けを求める。


「にいちゃん、たすけて、………」


いくら助けを求めた所で、聞こえもしないから、無駄なのだが。

———無駄なはずだった。





『ガチャ』


「凛、…?」


忘れもしないあの優しい声。


にいちゃん。俺ね、辛かったんだ。苦しかったんだ。

でも、兄ちゃんなら来てくれるって信じて、頑張ったんだよ。

褒めてよ。頑張ったなって、言ってよ。優しくしてよ。



褒めてもらえるって、本気で信じてた。



「あんな事で体調崩して、ろくに自己管理も出来ないんだな。」

え、?

「そんなんだから、ずっと愚弟なんだよ。」

にいちゃ、

「体調崩して気を使ってもらおうだなんて、うぜぇんだよ。」

違う、そんなんじゃない、何も知らないくせに、

「あれから少しでもマシになってると思った俺が間違ってたよ」

やめて、やめて、やめて、

「凛、もうお前は消えろ」


兄ちゃんはまた背中を向けて行ってしまった。



「ひゅ、カ、ひュ-、かヒゅッ、」

なんで、にいちゃん。

苦しい。寒い。辛い。もう、嫌だ。

斬りたい。辛い。苦しい。



震える手で刃を握る。

壊れていく感覚がして、安心する。

…疲れた。もう、寝よう。





母さんから、突然連絡が来た。

『凛が最近辛そうなの。

何かあったの?話をしてあげてくれない?』


すぐに帰って凛に会いに行った。

部屋に入ってすぐ、凛にまた、酷い言葉を投げた。

こうすれば立ち直ると思い込んでいた。


俺の言葉で凛が傷ついたことは分かっていた。

それでも、凛なら大丈夫、あいつは強いから。と自分の思い込みを押し付けていた。



流石に言い過ぎたか、と思い部屋に戻った。


「寝てるのか、?」

近づいて見るとそこには血で塗れたカッター、鋏。

「ッ、⁉︎」

凛の腕には傷跡。


「ん゛、………」

起こしてしまう、と焦ったが、焦りはすぐに驚きと罪悪感へと変わった。


「にいちゃ、…ごめ、なさ……おいて、いかないで、………」


その弟の寝言で、自分の言葉で最愛の弟が傷付いて苦しんでいる事に今更気付いた。



「にい、ちゃん、?」

「ッ、凛、」

「ごめんな、」

「ふぇ、」


凛が起きるなりすぐに謝罪の言葉を発した。


「ごめんな、もう置いて行かねぇから、」

「これからはずっと一緒だからな、」

「ずっとお前の味方だからな、」


今まで優しくしてこなかった分の言葉を全部吐く。


「…本当?」


ずっと冷たくしてきたから、信じられないのだろう。


「あぁ、ずっと一緒だ」

「絶対に」

「…うん!」





狭い部屋の中で、二人泣きながら、今までにない幸せそうな笑顔を見せた。

外では雪が舞っていた。





これでこの話は完結です!

次は新連載を用意しておりますので楽しみにもう暫くお待ち下さい。

では、ヽ(´▽`)/

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