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爆撃の音が止んだ。
外からか、この部屋からか、錆びた鉄の匂いが、血の匂いがする。
俺の主、ドイツ第三帝国こと、ナチス・ドイツ様は、ソビエト連邦に負けた。
耳の奥にはまだ、戦時中の騒音がまだ鳴り響いている。
戦いは、我が国の敗戦で終わったというのに。
「負け、た……?」
主は、何が何だかわかっていないようだった。
陽の光もまともに届かない、この冷たい石畳の牢屋のような地下室。
藁が敷かれただけの豪華な布団で、俺は動けないまま。
側には主がぼんやりとして座り込んでいる。
主は、まだ生まれてから12年。余りにも幼い精神と思考力。今の主には、戦場に向かわされていた頃の無の感情も、引き攣った笑顔も無い。
目の前に居るのはまだたったの12歳の、困惑した表情を浮かべた幼い主だけだ。
俺は、何もできなかった。
上層部の人間から後継者である妹を隠し、教育し、助言して、この弱りきった体で上層部の機嫌を取り、主に刃が向かない様にするしか無かった。
俺が、ドールでなければ、きっと主に仕える事はできなかった。けど、戦場で主を守れたかもしれない。戦争が起きたからといって体調を崩さずに済んだのに。
俺が、喘息持ちでなければ、主の身代わりに成れたかもしれないのに。
ーーもう、全てが終わった。
いや、俺の役割はまだ有ったな。
主の傷を増やさぬように、俺が生きた肉壁として居なくては。
喉の奥から込み上げてくる咳をなんとかこらえ、俺はなんとか声を絞り出す。
「主、大丈夫、です。何とか、成ります。何とか、します、から」
俺の震える声はどれ程嘘くさいだろう。
きっと、俺と主はもうすぐソビエトに捕虜として捕らえられるだろう。