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嗚呼、全身から力が湧き出してくるを感じているシャーリィ=アーキハクトです。実戦は何者にも勝る教師、まして相手は魔王であるマリアです。因縁もありますし、これ程相手に相応しい存在も居ないでしょう。
私の中に眠る勇者様が私に力を貸してくださると仰るので取り敢えず身を委ねてみた結果、これまでとは比べ物になら無いくらい身体が軽い。
何よりも、これは勇者様の怨念なのでしょうか。先ほどからずっと私の頭の中で目の前に居るマリアを殺せとの声が響いています。力が湧いて身体が軽くなると同時に、生まれて初めて感じるこの高揚感。
嗚呼、嗚呼!しかも今度はフェルーシアまで居るではありませんか!自分の感情を抑えられません。そんなに死にたいのなら、私の前に無防備に現れたのなら……嗚呼!!
「あはははははははっ!!!」
「ひぃあああっ!?」
「っ!シャーリィ!」
身体強化で一気に加速してフェルーシアへ迫り、手にした勇者様の剣を思い切り振り下ろしましたが、間に飛び込んだマリアが禍々しい力を秘めた剣で受け止めました。紫色に輝く刃、魔王の剣。ようやく抜きましたか!マリアぁあっ!!
「あはははははははっ!!!何ですか!そんなに私に相手をして欲しかったんですか!?マリアぁあっ!!」
「正気に戻りなさい!貴女の相手は私でしょう!?」
「そんなに焦らなくても、ちゃんと殺してあげますから心配しなくて良いんですよ、マリアぁあっ!!」
「ぐぅっ!?」
私の刃を受け止めているマリアのお腹が無防備なので、思い切り蹴ってあげました。剣術の戦い?違いますよ、これは純粋な殺し合いです。ルールは簡単、先に死んだ方が負け。実にシンプルで分かり易いでしょう?
ふむ、フェルーシアは腰を抜かしたようで護衛に連れられて逃げていきますね。実に情けない。
ん?あの執事の男性……砂色の髪……ヤンさんが証言していた男と同じ特徴ですね。なにより帝国であの色の髪は非常に珍しいはず。フェルーシアが全ての黒幕である可能性は非常に高いと確信しています。
そしてそれならば、実行犯の一人が側に居るのも不思議ではありません。貴重な証言を得られそうな人間を発見したことになりますね。ついでに拉致してお話を……。
「おっと」
首を傾げると、直ぐ側を炎の槍が通過して壁に激突し轟音を轟かせます。毛先がちょっと焦げてしまいましたね。
「ちょっとマリア、毛先が焦げてしまったのですが?」
「それは悪かったわね、お詫びとしてお説教しながら髪を整えてあげるわ」
「実に魅力的な提案ですが、それを受けたら帰れなくなってしまうので拒否しますね」
ふむ、今のどさくさに紛れてフェルーシアは逃げましたか。まあ良いでしょう。どちらにせよ今はまだ手を出す時期ではありませんし、こんなところで殺っては真相も分かりませんし、関係者も逃げてしまいますからね。
それよりも、目の前の女です。左手に魔力を集めて……大切なのはイメージの力。先ほどマリアが私に向けて投げてきた炎の槍をイメージすれば。
「っ!?貴女、もうそこまで!?」
左手にバチバチと帯電する雷の槍が出現しました。もちろん勇者様の剣は右手にありますから、これまではこんな芸当出来ませんでしたが……。
「勇者様が私に力を貸してくださっているのですよ。マリア、魔王らしく私に滅ぼされてくれませんか?ハッピーエンドですよ?」
「貴女を野放しにするなんて、バッドエンドも良いところ……よっ!!」
「おっと!」
再び炎の槍を生成したマリアがそのまま飛び掛かってきたので、奇しくも私たちは剣と槍を手に戦う羽目になりました。刀槍術でしたっけ、お母様から学んだ覚えがありますが、今は必要ありません。この刃と槍を目の前の女に叩き付けることをイメージすれば良いのですから!
左手の槍を突き出せば、マリアが体を捻って避け、代わりに炎の槍を突き出してくるので勇者様の剣で受けます。全てを滅する刃なのは変わらないようで、マリアの炎の槍は瞬く間に消滅。これを好機と更に一歩踏み込み……なっ!?
「ぁあああっ!!!」
「ふぐっ!?」
炎の槍を握っていた左手を瞬時に握り拳に変えて、更に踏み込んで思い切り殴ってきましたよ!
私の胸に突き刺さった拳は魔力による強化を付与していた様子で、私は吹き飛ばされて壁を突き破り帝城の外へ吹き飛ばされてしまいました。
「ウインド!」
直ぐに『飛空石』に魔力を流して、更に突風を発生させて空中で態勢を整えます。
……このくそやろう!!!
「らぁああっ!!!」
頭に来たので取り敢えず左手に持ったままの雷の槍をマリア目掛けて思い切り投擲してやりました。マリアが居るであろう場所に直撃して大爆発を起こし、一部の城壁が崩れますが知ったことではありません。更に追撃を……!?
「お姉さま!これくらいで充分かと!直ぐに離れましょう!」
レイミの声が聞こえた瞬間荒ぶる感情を無理矢理押し込めて周囲を見渡せば、城の塔にレイミの姿がありました。見たところ服はボロボロで怪我をしているみたいですね。
また城から離れる馬車の集団が遠望できましたし……潮時ですね。
「レイミ!飛んでください!」
「はい!お姉さま!」
レイミが私の指示に疑いを挟むこと無く塔から飛び降り。
「ウインド!!!」
私も急加速してレイミの下へ飛び、彼女をしっかりと抱き留めて一気に高度を上げます。体格差があるので悲しくなりますが、レイミの魔力にも反応して『飛空石』も絶好調です。帝城が騒がしいですが、気にしません。
「このまま港へ向かいますよ!」
「はい!」
そのまま港へ向けて飛ぶことにしました。これから忙しくなりますね。
シャーリィ達が離れた直後の帝城は混乱を極めていたが。
「あっ、お姉ちゃん。ごめんね、油断しちゃった」
節々が痛む身体に鞭打ってマリアは妹の聖奈を探し出した。彼女は無数の氷の剣で身体のあちこちを貫かれ壁に縫い付けられていたが、笑顔を浮かべていた。
「無事……とは言えないけど、元気そうで良かったわ。ちょっと疲れたから……今は休みたい」
「そーだね、次の事は明日考えよう」
焔で聖奈を串刺しにしている氷の剣を全て溶かし、マリアは妹を抱きしめてその場に座り込んだ。長い一日が終わろうとしていた。