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のり
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「……じゃあな、木村。忘れ物すんなよ」
一ノ瀬蓮はそう短く言い残すと、カバンを肩にかけて先に教室を出て行った。
残された陽菜は、彼が座っていた椅子の背もたれを、そっと指先でなぞる。まだ微かに彼の体温が残っているような気がした。
陽菜は、クラスでも目立つ存在の一ノ瀬蓮に恋をしている。
けれど、彼は陽菜のことを「ただの話しやすいクラスメイト」としか思っていない。それが痛いほど分かっていた。
さっきまで一緒に解いていたプリントの余白に、陽菜はこっそり、彼には絶対に見せられない文字を書き込んだ。
『あなたに私は恋をした』
「……言えるわけないじゃん」
陽菜は自嘲気味に笑い、その文字を消しゴムで強く消した。
蓮は誰にでも等しくぶっきらぼうで、誰にでも等しく優しい。
テスト前にノートを貸してあげた時も、彼が「助かった、ありがとな」と少しだけ目を細めて笑っただけで、陽菜の心臓はうるさいほど跳ねた。
でも、彼はその足で別の女子に呼ばれれば、同じように穏やかな顔で去っていく。
彼にとっての「特別」になりたいけれど、今の「友達」という特等席を失うのが何よりも怖い。
ある日、図書室で鉢合わせた蓮に、陽菜は思い切って聞いてみたことがある。
「一ノ瀬くんって、好きな人とか……いないの?」
蓮は読みかけの本から目を上げず、無関心そうに答えた。
「別に。恋愛とか、面倒なだけだろ」
その言葉が、鋭いトゲのように陽菜の胸に刺さった。
窓の外は、残酷なほど綺麗な夕焼け。
陽菜は、蓮の後ろ姿を追いかけることしかできない自分の足元を見つめた。
伝えたい言葉は、喉の奥で熱く沈んでいく。
明日も、明後日も。
私はきっと「友達」の顔をして、あなたの隣で笑うんだろう。
この胸の痛みが、いつか思い出に変わる日が来るまで。
消しゴムのカスが散らばる机の上で、陽菜はもう一度、心の中でだけ呟いた。
「……大好きだよ、一ノ瀬くん」
届かない想いだと分かっていても、陽菜の恋は、今日も夕闇に溶けていった。
どう?
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さよなら