テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
16
ゆゆゆゆ
76
29
FORSAKENの資料室。
静かな午後。
ホスフォラスが面白半分で持ち込んだ人間界の資料が机に積まれていた。
その中の一枚。
タイトル。
『犬の十戒』
人間界では有名な詩らしい。
犬から飼い主へ向けたメッセージ。
愛情。
信頼。
絆。
そういうやつである。
そして。
最悪なことに。
ノスフェラトゥが見つけた。
「……ほう」
アズール。
遠くから見て嫌な予感。
「その顔やめて」
遅かった。
ノスフェラトゥは読み始める。
『私を信じてください』
停止。
『それだけで私は幸せです』
停止。
「――――」
沈黙。
数秒後。
「おおおおおおおおおッ!!!」
館が揺れた。
アズール。
耳を塞ぐ。
「うるさい!!」
ノスフェラトゥは震えていた。
「完璧だ……」
震えていた。
「完璧すぎる……」
泣いていた。
「人間界の犬たちは……ここまで到達していたのか……!」
違う。
絶対違う。
「主を信じる喜び……!」
違う。
「主の傍にいる幸福……!」
違う。
「なんという高純度な従属の哲学……!」
違う。
アズール。
頭を抱える。
「だから違うって」
ノスフェラトゥは聞いていなかった。
完全に聞いていなかった。
数分後。
執務室。
スペクターが書類を読んでいる。
静か。
平和。
だった。
コンコン。
「主様」
嫌な予感。
スペクター。
即座に嫌な顔。
「入っていいよ」
扉が開く。
ノスフェラトゥ。
登場。
目がバキバキ。
両手で紙を抱えている。
アズール。
後ろから見学。
「終わったな」
ホスフォラス。
「終わったね」
ノスフェラトゥは感極まった顔で叫ぶ。
「主様!!」
「何かな」
「私は今日!!」
「うん」
「真理を知りました!!」
スペクター。
もう嫌な予感しかしない。
「聞くだけ聞こうか」
ノスフェラトゥ。
紙を掲げる。
「犬の十戒です!!」
「ああ」
「素晴らしい!!」
「そうだね」
「完全に私でした!!」
「違うと思うな」
即否定。
だが止まらない。
「見てください!」
紙を指差す。
『私を信じてください』
「うん」
「私です!」
「違うよ」
『私はあなたの味方です』
「私です!」
「違うよ」
『私にはあなたしかいません』
「私です!!」
「違うよ」
アズール。
「全部自分認定してる」
ホスフォラス。
「解釈が強引すぎる」
ノスフェラトゥは興奮していた。
「主様!」
「うん」
「私には牙があります!」
「あるね」
「ですが噛みません!」
「良いことだね」
「これぞ信頼!!」
「そうだね」
「これぞ従属!!」
「違うね」
「これぞ愛玩!!」
「違うね」
「これぞ究極の――」
「違うね」
全部否定された。
しかし。
ノスフェラトゥは止まらない。
むしろ加速した。
「つまり!」
「うん」
「私は主様を噛める!」
「嫌だな」
「だが噛まない!」
「うん」
「素晴らしい!」
「脅迫に聞こえるね」
沈黙。
ノスフェラトゥ停止。
「……脅迫」
「うん」
「私が」
「うん」
「主様を」
「うん」
「怖がらせた」
「少しだけね」
数秒後。
ノスフェラトゥ。
感極まる。
「つまり!!」
嫌な予感。
「私は主様の記憶に深く刻まれた!!」
「何でそうなるの」
アズール。
即ツッコミ。
ホスフォラス。
椅子から落ちる。
「その変換どうなってるの!?」
スペクターはため息を吐いた。
「ノスフェラトゥ」
「はい!」
「部屋の隅へ」
「はい!!」
シュバッ。
音速。
三秒で部屋の隅。
完璧な正座。
犬の十戒を胸に抱えている。
幸せそう。
アズール。
死んだ目。
「結局いつも通りじゃん」
ホスフォラス。
涙を拭く。
「十戒読んでパワーアップしただけだったね」
その日以降。
ノスフェラトゥは犬の十戒を大事に持ち歩くようになった。
ただし。
内容はほとんど理解していなかった。
理解したのは一つだけ。
「犬って素晴らしい」
そこだけだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!