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第1話「氷の眼差し」
――その日、久我 陽翔(くが はると)は少し機嫌が悪かった。
別に大した理由はない。ただ、ムカつくことが重なっただけだ。先生に目をつけられ、昼飯の時間にパンを買いに行こうとしたら売り切れ、さらにはしつこく絡んでくる上級生とまた揉めた。
上級生:「おい、久我。テメェ、ちょっと付き合えよ」
久我:「は? 何だよ、メシぐらい食わせろ」
上級生:「うるせぇ、ガキが調子乗ってんじゃねぇよ」
放課後、校舎裏で陽翔は3人の不良に囲まれていた。
別にこんなの初めてじゃない。陽翔はケンカが弱いわけじゃなかったし、舐められるつもりもなかった。だから、いつものように拳を握り、相手を睨みつける。
久我:「……やる気あんのか?」
上級生:「チッ、生意気な」
相手が動きかけたその時――。
?:「騒がしいな」
冷たい声が響いた。
陽翔が振り向くと、そこには一人の男が立っていた。黒髪、整った顔立ち、長身。学ランのボタンを一つも外さず、どこか隙のない佇まいの男。
「……氷室?」
同じクラスの氷室 慧(ひむろ けい)だった。口数が少なく、誰ともつるまず、常に冷静で無表情なヤツ。特に絡みはなかったが、その異質な雰囲気だけは知っていた。
上級生:「は? 何だコイツ」
「関係ねぇだろ、消えろよ」
不良たちは眉をひそめるが、慧は微動だにしない。
氷室:「いや、関係ある。お前らがここで騒ぐと目障りだ」
淡々とした声音だった。挑発するわけでもなく、怒るわけでもなく。ただ事実を述べるだけの冷静な口調。
上級生:「……っ、なんだよ、つまんねぇ」
「チッ、行くぞ」
不良たちは舌打ちしながら、そそくさと去っていった。
残された陽翔は、慧を睨みつける。
久我:「……別に助けてくれなんて頼んでねぇけど?」
氷室:「助けたつもりもない。ただ、お前が無駄に騒ぐのが面倒だっただけだ」
(なんだこいつ。助けたくせに、その言い草は何だ?):久我
陽翔の胸の奥が、妙にざわついた。
久我:「……チッ、覚えとけよ、氷野郎」
慧は何も言わずにその場を去った。
陽翔は、その背中を睨みつけながら、妙な気持ちを抱えていた–