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第2話「冷徹な視線」
それから数日、陽翔は氷室 慧のことが気になり始めた。
あの日以来、何度も校内ですれ違っていたが、慧はいつも冷たい目で陽翔を一瞥するだけで、特に何も言わなかった。
――それがまた、余計に気に障る。
ある日の昼休み。陽翔は教室の後ろで、おにぎりをかじりながらふと隣の席を見た。いつも通り、慧は一人で黙々と本を読んでいる。周囲の喧騒を無視するように、ただ静かにその世界に浸っていた。
陽翔はムッとして、椅子をガラガラと引きずり、慧の横に座った。
久我:「おい、何読んでんだ?」
氷室:「……関係ないだろ」
慧は無表情のまま、ページをめくりながら言った。
久我:「まぁ、そんなこと言うなよ」
氷室:「うるさい」
陽翔は少し驚いた。いつもなら、こんな風に話しかけてきたら何か反応があるはずだが、慧はまったく気にせずに本を読み続けている。
久我:「お前、冷たいな」
氷室:「それがどうした」
その言葉に、陽翔は少し悔しさを覚えた。
だが、気づけば陽翔はまた、慧に話しかけていた。
久我:「お前、何か隠してんだろ?」
氷室:「……」
久我:「なんだよ、黙ってないで言えよ」
陽翔は意地悪く言ったが、慧はほんの少しだけ目を細めた。
氷室:「隠すも何も、俺は別にお前に何も話すつもりはない」
その冷徹な言葉に、陽翔はまた胸が少し苦しくなった。まるで何かに取り憑かれているかのように、無駄に絡んでしまう自分がいた。
久我:「……お前、何か抱えてんだろ。お前の目、そんな冷たく見えるわけないじゃん」
氷室:「お前は…」
その時、ふと慧が顔を上げて、陽翔をじっと見つめた。
氷室:「お前が興味を持ってどうする?」
久我:「……は?」
その冷徹な視線が、陽翔の胸を打った。何かを言おうとしたが、言葉が喉に詰まった。慧の視線には、何か計り知れないものがあった。
――氷室 慧という男。
陽翔はその目を見ているうちに、今まで感じたことのない興奮を覚えた。
久我:「……くっ、何だよ、それ」
陽翔は再び舌打ちをし、席を立とうとした。
氷室:「お前、変わったな」
久我「……何が」
慧がふと、言葉をこぼした。
氷室:「さっきからうるさいだけじゃなくなった。お前、変わったよ」
その言葉に、陽翔は心の中で何かが弾けるのを感じた。
――変わった。
自分が変わったという自覚はない。しかし、確かに、どこかが変わり始めているのを感じていた。
久我:「……お前のせいだろうが」
陽翔は小さく呟くと、足早にその場を離れた。
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