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「ふーん! ふーん!」
流れるような漆黒のロングヘアーに三つ編みハーフアップ、そしてあまりに美しい、透き通るような深海色の瞳をした美少女……。
どうもはじめまして! あたしは刹夏彼美! 中学二年生の、この村一番の美少女(自称)よ! ヒミちゃんって呼んでね!
今日はこの村での、年に一度の夏祭り。確か、夏の神様を祭るためのお祭りなんだとかなんとかかんとか。あたしも、詳しくは知らないけどね。
ミンミンと蝉は五月蝿いし、汗は頬を伝って気持ち悪いし、正直あたしは夏は嫌い。そもそも苗字に夏なんてついてるけど、あたしは冬生まれです~。
何故か青い色をした金魚の刺繍がある浴衣がしわくちゃになるなんて気にかけずに、あたしはベンチへと横になった。そのまま、イカ焼きを口へ運び、弾力のあるそれを噛みちぎる。そして、ガリと歯が折れたと錯覚するくらいには固いりんご飴を噛んで、口の中に甘味が広がった。正直イカ焼きとは合わないな。っていうか、口の周りが色んな物でベトベトなんだが。まぁいいか。
あたしは今日、お母ちゃんと二人で祭りへ来ている。が、お母ちゃんはあたしを置いてどこかに行ってしまった。
お父ちゃんは死んじゃったんだし、仕事が忙しいのは分かる。けれど、年にたった一度のお祭りくらいは、一緒にまわりたいものだ。
お母ちゃんは昔から、あたしに対してどこかよそよそしかった。気まずそうな、悲しそうな。あたしを見る度に、目尻を下げて、そんな表情を浮かべるのだ。
そのせいで、あたしはお母ちゃんのことが苦手だった。
嫌いではない。それどころか好きだ。大好きだ。
ただ、こっちだって普通に気まずいし、苦手になってしまうのも仕方ないと思う。
「まてヒミ! そんなマイナス思考しちゃダメだわよ~!! プラスプラス!!」
ヒミちゃんはいつでもプラス思考! クラスの中心的存在! そんなあたしがこんな調子だったら、村の皆が困っちゃう!
いつの間にやらマイナス寄りになっていた自分の気持ちを入れ換えるために、活を一発頬を叩いて入れる。
カラン、とその時、鈴のような音が耳へと届いた。綺麗な、綺麗な鈴の音。
急いで周りを見渡すも、それらしいものは何もない。そこには人、人、人、屋台。たったそれだけだ。
「カーカー!!」
その時、烏がないた。比喩ではなく、本当に鳴いたのだ。何か探し物を見つけ、興奮しているようだった。
あたしは急いでりんご飴もイカ焼きも平らげると(りんご飴も一口で食べたわよ)、そのまま烏を追いかける。
何故だか、呼ばれているような、行かなければならないような、そんな気がした。
「はぁ、はぁ……はぁ……?」
無我夢中で足を動かしていたせいで、自分が今何処にいるかなんて、把握していなかった。
ゆっくりと顔を上げ、汗により張り付いた前髪をどけて見上げると、そこには大きな大きな真っ赤な鳥居が連なっていた。鳥居は苔むしており、恐らくもう誰も使っていない神社なのだろう。
きっと、今がもし昼ならば、とてつもなく美しい光景を見ることができるのだろう。鳥居の隙間から、遍く真っ青な空が一望できる。考えただけでも、心を強く打たれた。あたしって、こんなに詩的だっけ。不思議な気分だ。
不思議な気分はそれだけではない。そこにいると何だか懐かしいような、可笑しな気分にとらわれる。いつか来たことがあるような、可笑しな気分。
それにしても、随分と、山奥まで走ってきてしまったようである。気づけば草履は泥だらけだし、折角の可愛らしい浴衣には大量の泥がこびりついていた。
「うへぇ……」
思わず顔を顰める。こんなところにいるから、こんなことになるんだ。
さっさと帰ろう。ひょっとしたら、猪が出る可能性だって少なくはない。それどころか、熊やらライオンやらが顔を出すかも。
「ライオン? 姉チャンは面白いことを言うね~」
美声。耳を突き抜ける、中性的な美声だった。
声の主はケタケタと、不気味でどこか色めかしい笑いを零した。ゾッとするような、脳を溶かされるような、変な気分。
「カァカァ!」
また、烏が鳴いた。勿論これも、比喩ではない。
先程とは違う、歓喜に満ちたような鳴き声に感じた。
「おいで、おいで」
「美味しいものが一杯だよ」
「きっと楽しいよ」
「大丈夫だよ。痛くないよ」
「怖くないよ」
「主様は、優しいよ」
まるであたしのことを呼ぶように、手招きするように、草木が揺れていた。
また脳を溶かされるような変な気分に脳が高揚し、先程の冷静さを忘れて、洗脳されたように足を動かす。
そして、神域に入った。