テラーノベル
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「うぅ……ん……?」
重い身体をゆっくりと起こすと、そこは不思議な場所だった。
何処までも続く声を無くすほどに美しい青空に、田んぼの数々。後ろで流れる川に、古びた電柱柱の数々。そして、とてもいい香りのする、野生の土。それでも、横たわっていた私の服には何故か土はついておらず、はらう必要はなかった。
ここ、何処だろう。確かあたしは、あの後、沢山並んだ鳥居を潜って……。
「……ひょ、ひょっとして、神隠しにあったぁぁぁ!?」
昔から伝わる言い伝えを、聞いたことがある。
とても気まぐれな神様が、この村には住んでいるのだと。その神様は、気に入った、可愛く、可憐で、美人で、目の保養になりすぎて眩しい女の子(まさにあたし)を、神隠しに遭わせるのだと。あたしはよく、両親に聞かされていた。
「……いやいや! そんな非・現実的なことがあるはずないわよね~! これは夢! なのよ!」
「とか言ってられるのも今のうちですよ? お嬢さん」
「……エ??」
その中性的な声は、先程聞いたものと、まったく同じであった。
とうっと軽い掛け声と同時に、スタリと目の前に男の子がおりてきた。
その子は、まるで天使のような美少年だった。多分、あたしと同じくらいの男の子。真っ白で、まるで透き通ったみたいに見える、白髪のボブに、狐みたいな悪戯好きそうな細い紅色の瞳。服は黒い着物と黒い袴で、赤い糸で縫われていて、何故か左前だった。そこら辺に売っているようなプラスチック製ではなく、きちんと木で作られ、彫られた狐の仮面には透明な鈴がついており、それは顔を覆うのではなく、頭に付けている。下駄をはいており、彼が歩く度に、チリンチリンと音を鳴らしていた。
あたしが見惚れている内に、その男の子はニマニマしながらあたしに近づき、顔を覗き込んでくると、想像しなかった言葉を落とした。
「君……やっぱり美人だね」
「あんたの第一印象がめちゃくちゃ良くなったわ」
……じゃないじゃない!
あたしはこの変態から急いで逃げるために後ろへ下がると、唾を吐きながら叫んだ。
「何よあんた! 気持ち悪いヤツね!!」
「ありゃ。こりゃ失敬。私は『トワ』と申します」
「珍しい名前ね。じゃ、姓は?」
「そんなもの、ございませんよ」
トワとやらは、ケタケタと不気味に笑うと、あたしを指さしてくる。
何だ、この見下してくる感は。傲慢な感じは。ちょっと腹立つな。
「君は?」
「あ、あたしは……!」
「刹夏彼美ちゃんですね。存じております」
「一回殺していいかしら? ……いや、何であたしの名前知ってるのよ!?」
「今日は特にいい天気ですよねぇ。青い空を眺めていると、まるで心があらわれるようだ」
「全然人の話聞かないわね何なのコイツ」
失礼なトワは、服の皺を直すと、ゴホンと咳払いをして、開き直すように手を叩いた。
「……ようこそ! ヒミさん! 今日はお日柄もよく……あぁもう面倒くさい」
早くも何かをリタイアしたトワは、恐らく先程まで見ていたのだろう。カンニングペーパーをどこかへ投げ捨てると、馴れ馴れしくあたしの唇をなぞってきた。
いや、馴れ馴れしいというよりセクハラじゃない……? これ。
「あ~! やっぱし、おいらにはこーゆーの合わねぇな!」
「急に人柄変わるわね。怖」
「よっ! 姉ちゃん! ヒミちゃんって呼んでいいかい? ってか呼ぶね!」
「ちょちょちょ! さっきから何が何だか分からないんだけど!? ちゃんと一から説明してちょうだい!」
そう、意味がわからないのだ。
何か目が覚めたらそこが知らない絶景で? 何処から帰ればいいのかも分からなくて?? 意味わからん男の子が登場して?? 何か名前バレてて?? ちょっと……いや、かなり現実を受け入れられないのだが。
「うーんとね……ここはね、死ん域」
「神域?」
「うぅん。死ん域。あの世って言うんじゃないのかい? お前らの世界では」
「ちょっと意味がわからないわね」
「でねでね、ヒミちゃん。ここはあの世って言ったでしょ? つまりよ、ヒミちゃん死んだの。つまり元の世界には戻れないの」
「かなり意味がわからないわね」
「で、おいら神様。マイナー神だけど、一応神様」
「すごく意味がわからないわね」
「そうだヒミちゃん! 連絡先交換しな~い?」
「まじで意味がわからないわね」
「カー! カー!」
あ、あのカラスの声! さっきのカラスの声と同じ! ……嘘よ。カラスの声なんて選別できるわけないでしょ。
そのカラスはトワの腕にとまると、トワに頭を擦り付け、撫でてもらっていた。
「あの~……トワ。カラスよ? そいつ……」
「よぉわかったね! 人間ってそれくらいの脳ミソはあるんだぁ!」
「は?」
「こいつの名前は『ヌレバ』! おいらの、親友兼相棒~みたいな? かっこよくね!」
「カー! カー! ……トワ様。ただいま戻りました」
「しゃ、喋ったぁ!! キモ!」
「……トワ様。この娘がヒミ様ですか? 想像よりもクソガキなのですか……」
あら、カラスのくせに、大口叩いてるわね。あとで唐揚げにしてやろうかしら。
「そそ! おいらの彼女!」
「何言ってるのよ!!」
「え? ヒミちゃん好きな人いた系?」
「いや、いないけど……」
「じゃ、おいらの恋人でいいっしょ! おいらみたいな神様が、直々に能無しの人間を嫁さんに迎えてあげようとしてんだから!」
「死ね」
「ごめん間違えた」
いや、間違えてないだろわざとだろ。
……さっきから神様神様って、この子中二病かしら。
あたしが混乱していることに気がついたのか、ヌレバちゃんとかいうカラスが、トワに小言でそれを伝える。ヌレバちゃんに脳ミソで負けてないかしら?
「……トワ様。ちゃんと説明なされたのですか……?」
「した! おいら神様だーって! 偉いんだーって!」
「ダメだバカだコイツ。……ヒミ様」
突然ヌレバちゃんに様付けで名を呼ばれて、どきりと心臓が跳ね上がる。
え? あたしヌレバちゃんとのラブコメするの??
「は、はいっ!」
「トワ様は頭が悪いので、代わりにワタクシが説明しますが……」
「おいてめー」
「……あなた様は、人身御供として育てられた子なのです」
「……は?」
「そのため、我々が、捧げられる前に、一度保護という形で神隠しに遭わせようと……必ず、打開策を見つけ次第、元の世界に戻して差し上げますので……」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ~!?」
多分、人生で一番大きな叫び声が出たことだろう。
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