次の日の夜は満月だった。月は満月が一番好きだ。欠けたところがないのがかつて最強魔王として世界のすべてを手に入れた余とよく似ている。
極星会を壊滅させたと口で言っただけでは信用しない者もいるだろう。ということで撮影係として真琴も連れて行った。真琴が撮影した映像はリアルタイムで慎司たちのスマホでも見ることができる。もちろん入院している四人も。慎司たち幹部も四人の病室にいて、彼らといっしょに余の復讐を見届ける手はずになっている。
極星会会長の山鹿雄大の自宅へはタクシーで向かった。極星会の会長宅に行けと言うとタクシーの運転手に乗車拒否されるかもしれないから、近隣の公園までと真琴に指示させた。タクシーに乗車中、気づかぬうちに笑っていたらしい。
「陛下、何がおかしいんです?」
「この世界の空気はあまりきれいとは言えないが、こんなきれいな星空は見たことないと思ってな」
「星空を愛でていたのですか? 陛下はロマンティストでいらっしゃいますね」
「いや、どんなきれいな星空でも余にたてついて地獄を見た愚か者の絶望の表情と比べれば美しさという点で劣る」
「そんなものなら今まで飽きるほど見てきたのでは?」
「星空は見飽きても、それを見飽きることはないな」
「今日もまた見られそうですね」
「たぶんな」
タクシーの運転手は気さくなおばちゃんで乗車後しばらく何やかやと話しかけてきたのに、余と真琴のこの会話のあと一切話しかけてこなくなった。なぜだろう?
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