ナギのパーティでは、炎属性による身体強化魔法、ビルアスにより、一振りで相手を吹き飛ばす威力を得た。
そして、最後の一人は決して見逃さない盾を形成する。
ナギが単身で暴れると言う、至極シンプルな連携だが、見事に好きの一つも伺えなかった。
スッ…………!
再びヒノトは背後に回り、剣を振り上げるが、ナギの視界から離れても、遠くから見ているセッケの目から逃れることはできず、盾に防がれる。
「クソッ…………!」
魔法を一つに指定する、と言う条件の中で、グラムは既に岩属性の身体強化魔法、ビルアスを発動。
そして、リオンもまた、水防御魔法、水槽を発動。
「君、その速度は……魔族の子の魔法か……?」
「いや、これはな…………」
ヒノトが先程から、音もなく高速移動しているのは、リオンの水防御魔法による恩恵だった。
リオンの防御魔法は、ヒノトの身体に纏わり、ヒノトの魔法暴発の音を閉じ込める作用を持っていた。
その為、爆音が鳴り、奇襲にならなかった今までのヒノトの攻撃は、無音での高速移動へと進化していた。
「じゃあ、魔族の子の魔法は残っているんだね……。君たちの有利に違いないのに、攻めあぐねているのはどうしてだ? 遠慮でもしているのなら…………」
「遠慮はしてねぇさ。リリムの魔法は、“もう使ってる” んだよ」
「…………それらしきモノはないが…………?」
「へへ、まあ楽しみに待ってなよ」
「時間がかかるものなのか……はたまた、闇魔法には代償があると聞く。僕には効果の薄い魔法を指定してしまったのか…………。真相は分からないけど、それならばそれが発動される前に終わりにしよう…………」
そう言うと、ナギは剣を鞘に戻す。
やがて、剣からは静かな風が舞う。
“夕凪・椛・居合い”
シン………………
一瞬にして、ヒノトの背後に到達すると、剣を再び、静かに鞘に納めた。
「これで、君は戦闘不能だ」
そして、ナギはリリムを見遣る。
「次は、君だ」
「何を言ってるの?」
サッ…………!
背後には、斬り伏せたはずのヒノトが、剣を翻す。
「な、何故だ…………!?」
キィン!!
しかし、またしても盾に防がれる。
「これが、リリムの指定した闇魔法、“幻花” 。お前に斬られると分かった瞬間、お前は幻を斬るんだ。その間は俺もその場を離れられないけどな」
ナギは唖然とヒノトを眺める。
そう、それはつまり、“ナギと全く同じ状態” イーブンな戦いになっていることだった。
互いに素早い剣術、身体強化魔法、そして、外部から視認される防御、この勝負は、先に剣を相手に届かせた方が勝利する。
「で、お前のその剣…… “異邦剣術” だろ?」
その言葉を聞いた瞬間、ナギの顔色は曇る。
「何故……キルロンドの人間がそれを知っている……!」
「父さんも使えるんだ。異邦人から剣を習ったことがあるらしくて、俺も少し教えてもらった」
汗を滴らせながら、再びナギは剣を構える。
「タネが分かったところで、風を纏う僕の剣の前では、同等の剣撃は打ち負かせない…………!!」
ナギの自身に対する絶対的自信は、
“夕凪・楓”
この、他のキルロンドのソードマンが聞いたこともないような剣術、“異邦剣術” だった。
「速さがダメなら、連撃を喰らわせてやる…………!」
ズダダダダ!!!
勢い良く、ナギの剣はヒノトに連続的に襲い掛かる。
「俺も、強くならないといけねぇから」
“狐架・鼬鼠”
ズド…………!!
刹那、ナギの剣は止まり、ヒノトはその場から離れることなく、ナギの腹に剣が突き刺さる。
数秒後、ナギはその場にバタリと倒れた。
『勝者、キルロンド学寮 “DIVERSITY” の勝利 ―― !』
アナウンスが鳴り響くと、当然、サイバーソードにより怪我の一つも負っていないナギは、ヨロヨロと立ち上がりヒノトを睨んだ。
「どこまで……読んでたんだ…………? 魔法を指定させ、僕のパーティと全くの五分の状態を作り上げた。君は、そこまで考えて魔法の指定をしたんだろ…………?」
ヒノトは、ナギの目を見つめる。
「たまたまだ。まあ、一人で戦うんだろうな、ってのは予想できたけど、まさかシルフさんと同じ “異邦剣術” が使えるとまでは思っていなかった」
公式戦前、王城で生きた英雄と呼ばれた剣士、シルフ・レイスが、レオに全く手出しをさせなかった剣撃。
それこそが、”異邦剣術” と呼ばれるものの正体。
それは、過去に魔族に対抗する為、地球と呼ばれる異邦の国から召喚された剣士たちが扱っていた剣術だった。
それを自らの魔力と組み合わせ、通常の剣術よりも相手に見切られ辛い剣を仕向けることができる。
ヒノトは、リオンの水防御魔法、水槽により、魔法暴発の音を消すことで、真っ直ぐではあるが、暴発の威力はそのままに、静寂の中で剣を飛ばしていた。
ナギは、リリムの闇魔法、幻花による幻を斬る間、ヒノトにより放たれた剣に突き刺されていた。
「俺たちのパーティは、キルロンド学寮で唯一シード権を与えられなかったパーティだ。それは、平民の俺がリーダーだからか、魔族がいるからかは分からない。それでも、俺たちは他の奴らに勝って優勝する。その為には、いつまでも後衛たちのサポートがなきゃ戦えない前衛のままではいられないって考えた」
「その魔法指定が…………たまたま僕のパーティの志向と被っていた…………と言うことか…………」
露骨に悔しそうな顔を浮かべるナギ。
これは、単純に、“異邦剣術使い” 同士のイーブンな戦いで、敗北したことを示す。
そして、ナギはニコッと笑みを向けた。
「流石はキルロンド学寮に推薦入学を受けただけのソードマンだ。僕の完敗だよ、ヒノトくん」
「えっ、MCのアナウンス、わざわざ覚えててくれたのか?」
「いいや、実は君のことは知っていたんだ。昔と変わらず君はとてもかっこいいな…………」
そう言うと、細い目で笑う。
「えっ……と、ごめん……。どこかで会ったか……?」
「ふふ、次の試合も控えてるし、また今度話そう。改めて僕の真名は “凪・クロリエ” 。異邦人とこの世界の人間のハーフなんだ。改めて、よろしくね」
そう言うと、手を差し伸べる。
「ハハっ、だから “異邦剣術” が使えたのか!」
そして、ヒノトもその手を和かに交わす。
グッと握りながら、ヒノトの目を見つめる。
「君の剣を、いずれきっと超えてみせる」
「あぁ、俺も負けない…………!」
そうして、第二回戦は幕を閉じた。
――
控え室、レオたち KINGS が、装備を身に付けながらピリピリとしたムードを醸し出す。
「レオ、何分で終わらせる?」
一人早々に着替え終わったルークは、闘技場を薄目で見遣りながらレオに問う。
「一分だ」
「了解」
第三回戦、シード権からレオ率いるKINGSと、第一回戦を勝ち進んだ平民パーティの試合が始まろうとしていた。
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