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子供向けの遊園地だけど、この観覧車は大きくて、一周するのに十五分くらいかかる。
凜が眠ってしまっている現状、竜之介くんと二人きりみたいな訳で、何か言われるかもしれないとつい身構えてしまう。
「夜だったら景色もより綺麗だよね」
ひとまず何か話題をと窓の外を眺めながらそんな事を口にしてみるも、
「――ねぇ亜子さん、昨日、俺の居ないところで何を言われたの? 何も無いなんて嘘だよね? 隠しても分かるよ? お願いだから、きちんと話してよ」
やっぱり避けては通れないらしい。
竜之介くんは昨日の事を話題に出してきた。
「…………」
すぐ答えて否定しなければ、肯定している事になってしまうと分かっているのに、喉に言葉が引っかかっていて上手く話す事が出来ない。
本当は一番に相談しなきゃいけない事だって分かってる。
でも、言えない。
竜之介くんのご両親が私たちを認めるつもりが無い事も、もし私がこれからも彼の傍に居続けるつもりなら、竜之介くんが名雪家から勘当されてしまう事も。
私の事も凜の事も大切に思ってくれるのは嬉しいけれど、やっぱり私たちは住む世界が違い過ぎる。
いつまでも私が答えないでいると、竜之介くんは言葉を続けた。
「――ごめんね、辛い思いさせて。俺の家のせいで悩ませてるのは分かってる。正直、俺の考えが甘かったのかもしれない。昨日の親父の言葉を聞いて、それがはっきり分かった」
「竜之介くん……」
「だからさ、俺――決めたんだ」
彼はきっと、訴え続ければ許してもらえると思っていたに違いない。
私も、もしかしたらそうなるかもなんて思ってた。
だけど、それは無理だった。
そんなに簡単な問題じゃなかった。
それを竜之介くんも分かったんだろう。
もしかしたら、別れを切り出されるのかもしれない。
そんな風に思い、どんな決断をされても受け入れようと彼の次の言葉を待っていると、
「――俺、名雪の姓を、捨てようと思う」
向かい合って座る私の瞳を真っ直ぐに見据えながら、そう口にした。
「な、何言って――」
「勿論、簡単な事じゃないのは分かってる。また考えが甘いって思われるかもしれない。だけど俺は……亜子さんと一緒になれない未来なんて、考えられない。俺の未来には亜子さんと凜が居てくれないと駄目なんだ。だから、その為なら全てを捨てる覚悟だよ」
「……竜之介くん」
まさか、そんな事を言うなんて思わなかった。
竜之介くんの方が、覚悟を決めていた。
私は彼の未来を言い訳に、結局は逃げていただけ。
竜之介くんは、全てを捨ててでも私と凜を選んでくれようとしているのに……。
「亜子さん……?」
「り、竜之介くん……ごめん、……ごめんなさい」
「何で亜子さんが謝るの?」
「だって、竜之介くんはこんなにも一生懸命考えてくれているのに、……私、相談すら、出来なくて……」
「亜子さん……」
「竜之介くん、私――」
話を続けようと口を開き掛けた、その時、
「……ここ、どこ?」
目を覚ましてしまった凜が目を擦りながらキョロキョロと辺りを見回しながら問い掛けてきた。
「観覧車の中だよ」
「かんらんしゃ……」
まだ寝ぼけているのか、竜之介くんが言った言葉を繰り返すだけで状況がよく分かっていないようだ。
「……亜子さん、話の続きは今日の夜ね」
「……うん」
こうなると話を続ける事は困難なので、竜之介くんの『続きは夜』という言葉に頷いた。
あれから目を覚ました凜は観覧車を降りると、ショップに売っている玩具を欲しがったので、一つだけ購入して遊園地を後にした。
少し眠ってしまったからもう眠くないかと思いきや、中途半端だったからか車に戻ると暫くしてまた眠ってしまった凜。
このまま帰るのかと思いきや、車は自宅方面では無い方向へと走って行く。
「竜之介くん、まだ何処か寄るの?」
不思議に思った私が運転する竜之介くんに問い掛ける。
「さっき言ったでしょ? 凜がきちんと言う事聞いて遊園地を出る選択が出来たら嬉しい事があるって」
「うん、そうだけど……」
「実はここから少し行ったところに色々な種類の車の玩具が飾ってある博物館があるんだって。凜、最近乗り物好きでしょ? だから喜ぶかなって」
「そうなの? うん、凜ならきっと喜びそう」
「だから、そこに寄ってから帰ろうと思ってさ」
「そっか。ありがとう、竜之介くん」
どうやら凜の為に色々と探してくれていたようで、そんな彼の気遣いが本当に嬉しかった。