テラーノベル
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コメント
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めっちゃくちゃ良き作品すぎるよぉ✨
その日のお昼休み。元貴は朝から妙にそわそわしていた。
「先輩、一緒に食堂行きませんか?」
声をかけると、藤澤は一瞬だけ驚いたように目を瞬かせてから、柔らかく笑った。
「いいよ。ありがとう」
そのやり取りを、少し離れたところから若井が見ていた。
藤澤のことをほとんど知らない若井は、自然と一歩引いた位置を保っている。
三人で向かった食堂は、昼休みの熱気で騒がしかった。
並びながら、元貴は迷わずカレーを注文する。
「やっぱ昼はこれだよな」
「俺はラーメン」
若井がそう言って食券を出す横で、藤澤は何も頼まなかった。
席に着いてから、藤澤はカバンの中から小さな袋を取り出す。
中に入っていたのは、購買で売っているようなパンだった。
それを、静かにかじる。
「……」
元貴は一瞬、言葉を失った。
(あれ……?)
何か聞こうとして、でもすぐに飲み込む。
これを聞いたら、さすがに失礼だと思った。
若井も気づいたらしく、ちらりと元貴を見るが、何も言わない。
「食堂、混むよね」
藤澤が何でもないことのように言う。
「……そうですね」
元貴は曖昧に笑いながら、カレーを一口運ぶ。
でも、味があまりしなかった。
(こんな人だっけ)
ふと、記憶がよみがえる。
テアトルアカデミーで一緒だった頃の先輩。
仕事の合間、差し入れの弁当を「ありがたいね」って言いながら、ちゃんと食べていた。
無理している感じもなかった。
(パンだけ、って……)
ちらっと見ると、あの人はもう半分以上食べ終わっていた。
噛む回数が少なくて、どこか“作業”みたいだった。
若井は黙ったままラーメンをすすっている。
でも、その視線は時々、藤澤に向かっていた。
その視線に気づいたのか藤澤は
「若井くんは元貴くんと仲良いの?」
「え?あ。まあ中学から一緒だったんで」
「へえ〜いいね」と微笑む
「ごちそうさま」
藤澤はそう言って、まだ昼休みが終わっていないのに立ち上がる。
「じゃあ先に戻るね」
その背中を見送りながら、元貴はスプーンを持つ手を止めた。
(笑ってるのに、どこか削れてる)
“やり直し”って言葉で片付けるには、
この先輩は、少しおかしかった。
そしてその違和感は、
元貴と若井の中に、確実に残り始めていた。