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元貴sideーーー
それから、先輩は不思議な存在になった。
来ない日が続いたかと思えば、何事もなかったようにふらっと教室に現れる。
そのたびに、クラスは少しざわついた。
「また今日もいないじゃん」
「昨日はいたのに?」
そんな声が聞こえても、本人は気にしていないようだった。
久しぶりに登校した日。
クラスメイトの一人が、わざとらしく声をかけた。
「藤澤ってさ、留年なんだよね?」
「高校一年、二回目?」
空気が一瞬、止まる。
俺は反射的に顔を上げた。
でも、先輩は驚くほど穏やかに笑った。
「うん。そうだよ」
それだけ。
「メンタル強くない?」
「普通、気まずくならない?」
重ねられる言葉にも、先輩は眉一つ動かさない。
「みんなと一緒のクラスで過ごせるならそれで十分」
声は柔らかくて、目も優しい。
むしろ相手を気遣っているみたいだった。
(……すげえな)
正直、そう思った。
年上として、完璧すぎる対応。
誰かが軽くからかっても、
誰かが無神経なことを言っても、
先輩は全部、笑顔で受け止める。
それは本当に、
「先輩の対応」のお手本みたいだった。
でも。
(なんで、そこまで……?)
俺の胸の奥で、別の声がした。
普通なら、少しくらい嫌な顔をしてもいい。
黙り込んだって、無視したっていいはずだ。
それなのにあの人は、
自分が削れる方を選んでいるように見えた。
笑っているのに、
誰よりも距離を取っている。
(これが“大人”ってやつなのか……?)
いや、違う気がする。
“先輩”を演じているだけで、
本当は、誰にも触れてほしくない何かを隠している。
そんな気がして、
俺はノートを閉じる手を、少しだけ強く握った。
藤澤涼架。
笑う先輩。
その笑顔の裏にあるものを、
俺はまだ、知らない。