テラーノベル
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会議室で枢軸が笑っているその同じ時刻。
俺は、自分の部屋に籠もっていた。
窓の外は曇天。
どこか遠くで雷鳴がかすかに響く。
空の色と同じように、胸の奥もずっと重苦しい。
机の上には地図。
その上に赤鉛筆で書いた侵攻の線が、無数に走っている。
いや、正確には「殴り書き」だ。
矢印は途中でねじれて、何度も塗りつぶされ、地図の紙が破れそうになっていた。
ソ連「……」
無意識に、また線を引こうとする。
けれど指先が止まる。
浮かんでしまった。
――ナチスの顔が。
あの冷たい金色の瞳。
残酷な笑み。
鋭い声。
ソ連「……違う」
思わず否定の声が漏れる。
なのに、その奥に重なる。
かつて、時々だけ見せた真っ直ぐな目。
あの目が脳裏に焼きついて離れない。
ソ連「やめろ……俺は……」
俺はあいつに目を奪われた。
傷つけられた。
俺の中に残っているのは憎悪だけ――そうでなければいけない。
だが。
ふとした瞬間に思い出す。
不器用に口元を歪めた笑み。
仲間に囲まれながらも、どこか孤独そうだった横顔。
そして最後に俺を突き放した冷酷さ。
思い出せば思い出すほど、胸が締め付けられる。
ソ連「なんで……お前なんだ」
地図に落ちる涙がにじみ、赤い線が滲む。
⸻
ロシア「親父……」
不意に、扉の向こうからロシアの声。
びくりと肩が震えた。
ソ連「今は……入るな」
短くそう告げると、ロシアはしばらく黙り込み、それから静かに扉を閉めた。
残された静寂が胸を刺す。
ソ連「……まただ」
俺は机に額を押しつける。
怒鳴ってもいないのに、息子を拒んだ。
ロシアの表情が頭に浮かぶ。
きっと、あの子はわかっている。
俺が不安定で、どうしようもない国だって。
それでも、支えようとしてくれているのに――。
ソ連「俺は……駄目な父親だ」
呟きながら、拳で机を叩く。
赤鉛筆が転がり落ちて、床に転がる。
⸻
気づけば夜になっていた。
窓の外は真っ黒な雲に覆われ、遠くの雷光が一瞬だけ部屋を照らす。
俺は立ち上がり、鏡の前に立つ。
映ったのは疲れ果てた顔。
右の眼帯が、醜く目立つ。
ソ連「……お前が奪った」
低く、誰にともなく呟く。
触れると、まだ傷が疼くような気がした。
ナチスが残したもの。
それは痛みだけじゃない。
心の奥にこびりついた影だった。
ソ連「俺を……どうしたいんだ」
鏡の中の自分に問いかける。
答えなんてない。
でも、もしナチスが今ここにいたなら――俺は殴り殺すだろうか。
それとも……縋りついてしまうだろうか。
ソ連「ふざけるな……」
息が荒くなる。
胸が痛い。
壁に拳を叩きつける。
乾いた音が響き、皮膚が裂けて血が流れた。
けれどその痛みさえ、空虚を埋めることはできない。
⸻
また、声が聞こえた気がした。
――ソ連。
誰もいないはずの部屋で。
幻聴のように。
振り返るが、当然誰もいない。
ただ自分の心臓の音だけがやけに大きく響いている。
ソ連「やめろ……もうやめろ……!」
耳を塞ぐ。
けれど、思考は止まらない。
枢軸と並んで笑っているナチス。
その笑い声が、頭の中で何度も繰り返される。
俺を見ないその目。
ソ連「見ろよ……俺を……!」
叫ぶ声は震え、涙に濡れていた。
誰も応えてはくれない。
⸻
戦争まで、あと数日。
俺はもう限界に近かった。
怒鳴っては謝り、謝っては自己嫌悪に沈む毎日。
それでも心の奥にあるのは、ナチスの姿ばかり。
ソ連「俺は……お前に囚われたままだ」
赤い地図を睨みつけながら、呟く。
そして思う。
この戦争で――必ず決着をつける。
憎悪でも、愛情でも、どちらに転んでも構わない。
ただ一つ確かなのは。
俺はお前を殺すか、抱きしめるか。
そのどちらかしかできないということだった。
夜は静かに更けていく。
雷鳴の残響だけが、俺の狂気を照らしていた。
なんか病み難しい……
あと、他の作品も含めて1000以上のいいね、みんなありがとね!ではまた!
コメント
2件
病みって可愛いですね もっと病め(((