部屋に響くのは画面をタップする音と空調の音。佐久間と一緒に居るのに、なんだか不思議な感覚だった。
大[俺、もう声出せなくて。]
亮「えっ」
大[あ、あとさ、気味悪いでしょ、これ。]
大[夏だし暑いから隠すにも、ごめんねw]
佐久間は自分の腕の桃色の鱗をそっと撫でた後、俺のほうを見てくしゃっと笑った。
大[そうそう!今日月出てるんだよ!見に行こ!]
亮「うん…。」
月を見にベランダに出ると、外で見た時と同じ綺麗な満月が遠くのほうで光を放っていた。
今日ってこんなに月が綺麗だったんだ。
俺は佐久間が居なかったら見れなかったこの景色にすっかり釘付けになった。
大「…トントンッ」
亮「ん…?」
大[綺麗だね。]
スマホの画面を向けてくる佐久間の方を見ると、複数の明かりに照らされて、袖から覗いた桃色の鱗が反射してよく見えた。
月明かりに照らされた佐久間のそれは美しく光り輝いていた。
大[泡沫症候群って言うんだって。]
亮「泡沫症候群…?」
大[片思いしてる時に海に行くと発症するの。]
亮「放置するとどうなるの?」
大[泡になって消滅する。]
亮「…治し方は?」
大「……。」
少しの沈黙のあと、佐久間は複雑そうな顔をしながらスマホの画面を俺に向けた。
大[両思いになってキスをする。]
亮「…相手って……。」
大[あべちゃん知ってるでしょー?w]
佐久間の好きな人はめめ。そんなこと知ってる。痛いほど知ってる。好きな人の好きな人だから嫌でも気づいてしまう。
亮『俺とのキスじゃダメなの?』
ふと思ったことを口に出して言う。もうこの際、言ってしまった方が気が楽だとどこかで思っていたからだ。
大[うん、だめだよ。]
大[あと、治すつもりも無い。]
亮「そんな、、佐久間死んじゃう…。」
大[しょうがないよ。]
亮「じゃあさ、めめに会いに行こう?そしたら…!」
大[ううん、大丈夫。]
そう言う佐久間は、生きる事への執着が無く運命を受け入れているように見えた。
大[もう、あべちゃん泣かないでよ〜]
亮「無理言わないで…。」
呆れたように微笑んだ佐久間の顔は平静を装いながらもどこか苦しそうで見ていられなかった。
大[俺、あべちゃんに恋したかったな。]
あぁ、そっか。佐久間も死にたいわけじゃないんだ。
第一、望んで泡沫症候群になった訳じゃない。
治そうと思えば治せるけど治す気が無いのは、好きだけど気持ちは相手には伝えたくない。自分の独りよがりで迷惑になるかも知れないから。つまり、佐久間は目黒への恋心を嫌悪し、その恋を諦めているから。
亮「俺、諦めないから。」
佐久間はキョトンと首を傾げた。
佐久間の叶わない恋の対象を自分にしてしまえばいい。そうすれば治してあげることができる。そう思った。
もう前みたいに佐久間と笑い合えないのはこれからの俺の未来理想図には含まれていないから。
桃色の宝石《END》
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