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夏の暑い日
ジリジリと照りつける太陽は、外にいる人間の体力を確実に奪っていく。
それだけなら、まだ良かったが…
「おーい!サクラ〜!!」
声の主を想像して、うんざりしながら 振り返ると…、
日差しにも負けないようなテンションで、走り寄ってくる男を視界にとらえる。
今にも飛びついてくるのでは、そう思うほどに興奮した様子だ。
「…なに?」
私はこの暑さに、この男のテンションも相まって、図らずとも辟易とした態度で応じてしまう。
「なぁなぁ!聞いたか?この間、俺の母親がもうすぐ出産するって言っただろ?」
デカい図体と似合わないストレートな茶髪で、いかにもチャラ男なこの男は、『平坂タイキ』。信じたくないが、小学校からの幼馴染だ。
「〜〜で!俺にもついに…、やっと〜〜〜だよ!どれだけ〜〜か!」
ピアスは両耳に一つずつ、顔はまあまあ、と言ったところだろう。
そして、熱く語っているところ残念だが、彼の話はほとんどが右から左である。
「…って、おい!サクラ、聞いてるのか?」
「え?ごめん、あまりの暑さで…」
このバカみたいにうるさい男のせいで、必要以上に体力を使うんだ。適当に相槌してあげるだけでもありがたいと思って欲しい。
「はぁ!?仕方ねえなぁ…もう一度だけ言うぞ!俺に、妹が、できるんだよ!!」
「へぇ〜、おめでとう」
なんだ、そんなこと。良かったね。
「あ!?せっかく2回も教えてやったのになんだよその返事は!!」
面倒くさい。
「あー、はいはい。妹ちゃんね。名前はもう決めたの?」
「おう!もちろん!名前はな〜〜」
そうして、タイキの話を聞き流していると大学の門が見えてくる。
某有名な国立〇〇大学
ようやく、私の平穏な一日が始まる。
タイキと分かれ、自分の学科のある棟に歩き出す。
私のいる学科は、主に理化学系のため男性が必然的に多くなる。
ただ、そんな中でも…
「立花さ〜ん!おはよう!」
全体の人数の四分の一もいない女子とは、殆どと面識がある。
「おはよう」
ニコッと微笑むと、相手の女の子は頬を染めながら「次の教室一緒に行かない?」と誘ってくれる。
「いいよ、一緒に行こ」
他愛のない会話、愛想よく微笑む自分、全てが平和で乱れがない。
そして席に着くなり、一緒に話をしていた女の子がそわそわと私に視線を寄越す。そして、決心したのか私に向かって話し始める。
「立花さん。その…もしなんだけど、先週のこの授業のノートとか取ってたりするかな…?」
ああ、なるほど。
「うん、必要だったら貸すよ」
人当たりのいい笑みと共に了承すると、
「ほんと?ありがとう!」
彼女の表情が満面の笑みに変わる。
さっそく私は自身のノートを貸そうと、下に置いたカバンに手を触れる。
ガサガサ、
カバンにはノートパソコンと教材が今日に限って多く、取り出すのに苦労する。カバンを持ち上げるのは面倒なため、屈んだ姿勢でノートを探す。
すると、教室の中央階段を移動する人の足が私のカバンにぶつかった。
「あっ、すみません…!」
友人と話していたらしい男性は、足元に対して注意出来なかったようだ。
「いえ、こちらこそ」
私の方こそ、カバンを持ち上げずに探していたのだから申し訳ない。
きっとその場だけのやり取りだと思って、顔を上げずにノートを取り出すのを再開していると、
「工藤くんだ…!!(ボソ)」
先ほどの女の子の、興奮で上擦った声が背後から聞こえた。
気になって顔を上げると、恐ろしく顔の造形の綺麗な青年だった。
彼女が騒ぐのも頷ける。
中世的な顔立ちで、見た目かなり若い。大学何年生だろうか。
盗み見していると、本人と 目が合ってしまった。
「……」
「……」
お互いに見つめあったまま、動かない。時間としては1秒にも満たなかったと思う。
私は気まずくなるのを避けるため、早々に視線を外した。
あ、ノートあった。
私は屈んだ体を元に戻して、女の子を振り返る。
「はい、これ。来週までに返してくれればいいから」
「あ!ありがとう…!……?」
女の子は感謝の言葉を述べ、だがなぜか姿勢を戻さずにコチラを気にかけている。
(なんなの…?)
「…あの!」
「……」
するとタイミングよく、後ろから声をかけられる。先ほどの男の子だ。
私になんの用が?
「はい、なんですか?」
「…今日、時間があったら話がしたいんだけど」
「今日ですか…お昼は発表が控えていて、授業終わりだと16時過ぎますけど大丈夫ですか?」
「もちろん。俺もその時間に授業が終わるので、終わり次第…あっ、連絡先聞いても大丈夫ですか?」
…彼は狙ったのだろうか?
まるで今気づきましたと言わんばかりに、スマホを慌てたように取り出して、困ったような笑顔を見せる。