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「……行っちまったな」
「あぁ、行ってしまったね」
空間転移の人数制限で弾かれ、その場に残された氷使いと晃弘。 動けなくなってしまった一般人の手当をしつつ、周りの安全を確保する。
偽・魔術師が一人とは限らない。もしかしたら協力者の一人や二人居てもおかしくない。
「………創造系統偽・魔術師に協力者は居ない。彼はずっと単独で行動しているからね」
「………している?それはどう言う意味だ」
「簡単な話さ、私は千里眼持ちでね。未来が視えるのさ」
「創造系統偽・魔術師はこの戦いの後に単独で行動している。その先も、その先の先も、誰かと合流して何かをする様子は見当たらない」
あれほど隠れてコソコソ会話していた内容をあっさりと、晃弘の前で千里眼の事をバラした。
それを聞いた晃弘は、驚いた顔ひとつせずにそのまま治療を続ける。
氷使いの方も予想済みなのか、それとも先に視たのか。どちらかは分からないが、晃弘の反応に対して驚いたりもしなかった。
「つまり、お前さんはこの状況に陥る事を知っていたって訳か。………いや、わざとこの状況を作り出したの方が正しそうだな」
「鋭いね、錬金術師」
「その通り、私は君達と出会う前から視てたのさ。電車の中で出会う事も、その後の移動も、創造系統偽・魔術師と出会う事も全部」
「………兄ちゃんが攻撃を防ぐ方法がある事もか?」
「勿論。私の千里眼で能力を覗き見した時に、面白いモノが見えてね。少し賭けてみたのさ」
妖術師が能力に目覚めると信じての行動。
その後、創造系統偽・魔術師への対抗手段を確保する事も含め、氷使いは全てを見通していた。
「………魔術師、それは “嘘” だな」
と、語っていた氷使いの言葉をバッサリと晃弘は一言で切り捨てた。
そう、晃弘には他の錬金術師には無い、もうひとつの能力を持っている。それは『嘘を見抜く』能力。
「……嘘だって?私は嘘をついていないさ。視た通り、そして辿った通りの事を話してるだけで―――」
「―――お前さん。創造系統偽・魔術師が剣を抜いた時、焦って防御体制を取ったな。一般人から見れば平然としていた姿に見えただろうな」
「………本当は千里眼で未来が視えなかったんだろ?」
氷使いの顔が引き攣る。どうやら晃弘の言葉は的中していたらしい。
ほんの一瞬、魔力を練り、場の空気を凍らせて剣撃を防ぐ準備をしていただけで、晃弘の能力に引っかかったのだ。
氷使いは少し俯いたまま、本当の事を語る。
「………攻撃を防ぐ話は余計だったかな。その通り、私は視えなかった。視えなかったんだ」
「プツリとテレビの電源が切れたのと同様、私の視ていた先は真っ暗で、何も存在しなかった。道は絶たれ、どう行動すればいいかも分からなくなった」
「生まれて初めてさ、こんな経験をしたのは」
「………それで、お前さんの千里眼とやらは使えなくなったのか?」
「いや、その後に妖術師が出した黒い霧が周囲の人間を包み込んだ瞬間。真っ暗だった未来が突然、電源が入ったかのように続きが映し出された」
「ほんの数秒、未来視が未来を予測出来なかった世界が元に戻り、私の脳内に情報を伝達しようと魔力が巡った」
「その影響で動けなくなってる間に、妖術師の氷技を食らったと言う訳か。つまり未来視が復活した後の未来は正常に視れたんだな?」
「あぁ、それが最初に言った “他に仲間はいない” だよ」
氷使いは溜息をつき、改めてこの妖術師と錬金術師がどれ程の実力者なのかを実感した。
その後は無言が続き、互いに少し気まずい空気が流れ出した頃、ようやく警察が到着して場は収まった。
「………所でお前さん、魔導書はどうした」
と晃弘の言葉を聞いた氷使いは少し固まった後に、全身のポケットの中身を探し始める。
そう、服に付いていたはずの魔導書がいつの間にか無くなっていたのだ。
氷使いは焦った表情をしながら周囲を見渡し、全てを理解した顔で大きく息を吐く。
「…………また落としてしまったみたいだ」
この場に妖術師が居たら絶対に「お前は学ばないな……」と言われていただろう。
正直、私も思った。
「―――『聖剣』!!」
シャルルマーニュ伝説にて登場する、英雄・ローランが持つ聖剣とされる “デュランダル” 。
創造系統偽・魔術師が創り出した剣が本物のデュランダルかどうかはさておき、切れ味に関しては伝説通り。
腕を一瞬掠っただけでも命取りになりうる攻撃。注意深く行動しなければ首が飛ぶのはこちらの方だ。
「その程度の動きで、僕の攻撃を避ける事が出来るとでも!?」
術を使用するよりも早く、創造系統偽・魔術師の攻撃が繰り出される。
俺は大きく放たれた一閃を黒鶫で受け流した――― と思ったが、 聖剣は俺の左腕を切り飛ばした。
やはり、俺が “認識した距離” と “攻撃の距離” が全く違う。かと言って、視覚阻害の類は感じられない。
「厄介な相手だな」
接近戦に持ち込んだり、間合いを取った所であの攻撃を避けるのは無理ゲー確定。 この状況をたった一言で現すなら『詰み』だ。
でも俺には、新しい力がある。
「空間転移!!」
創造系統偽・魔術師から間合いを取ると見せかけて、ダッシュでそのまま開いたゲートを潜り、攻撃に転じる。
しかし、黒鶫の刃は肉に届かず、聖剣と接触して激しく火花が散ちる。
どちらかが首元に一発攻撃を当てることさえ出来れば決着はつく。だが、その一発が容易に当たらず届かず、何度打ち合っても結果は同じ。
「………今!!」
刹那、創造系統偽・魔術師の視線が俺から外れる。 魔術師との戦いの中で一番の転機は、相手が此方から意識を少し逸らした時。
その一瞬、その刹那を、俺は見逃さない。
―――だがそれは創造系統偽・魔術師も同じ。 俺が隙をついて放った一振を右手で掴み、残った左手で聖剣を振り翳す。
そのまま聖剣は俺の頭蓋を割る……事は無く。
「………っがァ!!」
未だ健在の右腕に残された膂力を、全て 黒鶫に注ぎ込み、創造系統偽・魔術師の手のひらから肘の辺りまで肉を絶った。
その衝撃のせいか、創造系統偽・魔術師の放った攻撃は外れ、俺の頭蓋を割らずに地面へと叩き付けられた。
その一連の動作に無駄な動きはひとつも無い。互いに洗礼された剣士として完璧な動き。 両者引かずの防戦一方。
「たった片腕に残された力で僕の腕を斬りましたか。その執念、まるで獣ですね」
妖術師と偽・魔術師。そのどちらも片腕が使い物にならず、状況は同じ。
「ケッ、そりゃお互い様ってもんだろ 」
目線が交差する。時間が止まったかのように二人は静止し、音が静まり返る。
――― ただその中で木の葉が擦れる音のみが、時間の流れを伝える。
先に動いた方の負け、とかでは無い。逆にこの場合は先に動いて一本打ち込める事が出来れば勝ちに近づく。
が、それでも二人は動かない。
「……………ぅ!! 」
「…ぇ………っ!!」
同時に息を呑む。 予期せぬ、その行動が合図となった。
聖剣は俺の命を狩り取ろうと、剣先を白く光らせてその存在を主張する。
それに対して、黒鶫は創造系統偽・魔術師を捉える事無く、俺は何も無い空間へと刃を振り下ろす。
突然の奇行、それを見た創造系統偽・魔術師は少々困惑しながらもその勢いを止めることは無かった。
剣先が俺の鎖骨上に浅く刺さり、そのまま喉を斬ろうと奥へと進み続ける。
俺は避けず、そのまま空を斬ったまま停止。
「………取った!!」
もしこの場に誰かしらが居れば、全く同じ事を思っただろう。確実に妖術師は死ぬと、喉を斬られて死ぬだろうと。
だがもしこの場に惣一郎が居れば、全く別の事を思っただろう。―――取られたのは魔術師の方だ、と。
「空間転移」
僅か半径数センチ、大人の親指と人差し指で円を作ったのと同等のサイズ。
剣だけが通るほんの少しの大きさをしたゲートが、突き刺されて斬られるはずの喉に出現する。
………否、そのゲートは喉にあるように見えているだけ。
実際は創造系統偽・魔術師が持つ聖剣、その剣の中心部にゲートを作り、喉に突き刺さったかの様に演出していたのだ。
「……体にゲート……これはなんと厄介な!!」
それをまだ知らない創造系統偽・魔術師は、剣を思いっきり横に振り、俺の首を羽飛ばそうと試みる。
だが勿論、俺の首が体と別れるはずがない。
「……っなに!?」
「やっぱテメェら魔術師は脳が足りてねェな!!」
振り切った後に、ようやく “剣そのものにゲートが出現している” と知った創造系統偽・魔術師。……やはり魔術師と言うのは慢心と無知の塊だ。
剣を振る為には、もう一動作加えないといけない態勢になっている創造系統偽・魔術師の頭を掴み、俺は盛大に頭突きをお見舞いする。
「痛ってぇ……けど!!死ぬ時よりかはまだまだ全然マシだなァ!!」
頭突きを食らった創造系統偽・魔術師は、背中から倒れてそのまま動かなくなった。
………決着がついた、という訳では無い。 次の戦闘に備えての一時的な猶予が俺に与えられた。
そりゃ勿論、このまま倒れた創造系統偽・魔術師に黒鶫を突き刺し、息の根を止めれば万事解決。
だが今の俺にその気力は無い。
『複製』は三度使うだけで妖力が枯渇する程に燃費が悪く、加えて毎秒妖力を必要とする神器の濫用。
魔力の場合は全て使い切っても、体本来の力を失わない。魔力は術師が活動する為の力、筋肉を動かすのに魔力は使用しない。
―――それに比べて妖力は最悪だ。
妖術師の場合は血液同様、妖力を全身に巡らせた状態でないと体全体に力が入りにくく、戦闘の際に最も恐れる無防備な態勢となる。
それが今の俺だ。
巡らせる妖力は最小限に抑え、”狂刀神ノ加護” から溢れ出る妖力で妖術が使えるまで回復を待つ。
「…………今起きンなよ…魔術師…」
気絶させたとは言え、もしかしたら数秒で意識を取り戻して戦闘再開となるかもしれない。
「惣一郎さんから貰った残り一枚……使わずに残しておいて良かった…… 」
緑色の本を懐から取り出し、最後のページに挟まれていた赤いページを口を使って引きちぎる。
――― “都市部専用術” の許可証であり、妖力補充の刻印が刻まれている紙。
千里眼からの選択肢を得るために一度使った紙。本来ならばあの場で使った一枚で終わるはずだった。
「……妖術の多使用で、俺がこうなる事を見越して……って感じか…?」
二枚目だ、赤い紙は二枚目挟まっていたのだ。
俺が極限状態に至ると、策を講じる為に妖術一覧が書かれたこの本を開くと考えた上で、 一枚目を使用しなければ発見できない様に細工したのだろう。
「………結局あの人は…どっちなんだ…」
惣一郎は裏切り者なのかどうか。 それは凄く気になるし、早めに解明したい所だが……今はそんな事を言っていられない。
口に咥えたままの赤い紙が霧の様に消え、体全体の妖力を回して行く。おかげで循環しきった辺りで俺の身体は動ける程度まで回復した。
「………回復はしたが、空間転移は使えそうにないな」
また連発すれば、妖力が枯渇してさっきの状態へと逆戻りだ。
まだ創造系統偽・魔術師との戦いが終わっていない状況で、それだけは避けなければならない。
「………出来れば、ここでくたばって欲しかったんだけどなァ」
遡行する前にも感じた背筋が凍える程の殺気、やはりコレはただの偽・魔術師如きが発せる雰囲気では無い。
俺は急いで創造系統偽・魔術師と距離を取る。
地面に倒れていた創造系統偽・魔術師はゆっくりと体を起こし、頭を抱えながら再び聖剣を手にする。
「嫌ですよ、僕も死にたくないので」
此方の状態は、妖力不足に片腕のみ。 向こうは体の何処も欠けておらず、恐らく魔力も十分。
圧倒的不利。 このまま戦い続ければ必ず俺が負ける。ならば、いつも通りの一撃必殺に全てを注ぎ込む。
「っドラァ!!」
「っガアァ!!」
どちらの武器も性能は落ちず、もう一度火花を散らすのみ。
何度も何度も打ち合い、森林の奥深くへと金属がぶつかる音が響き渡る。その都度、地面は赤く染まり、血の匂いがこびり付く。
何度も、何度も、何度も、何度も。
避けては斬り、斬っては防ぎ、防いでは術を使い、追い詰められては逃げる。これを繰り返し続ける。
俺と創造系統偽・魔術師の体力が徐々に削れて行き、互いの剣(刀)の威力とその技術性も段々と落ちて行く。
「ハァ…ハァ……ハァ…クソっ……!!」
何度も打ち合い、タイミングを見計らっていたのにも関わらず、創造系統偽・魔術師に一撃必殺を繰り出す隙が無い。
たが体力の限界を迎えそうなのは向こうも同じ。ここで畳み掛けるしかない。
周りの木々が悲鳴をあげる程の渾身の叫びで腕への力を集中させる。
「氷解銘きょ………
この一撃で確実に創造系統偽・魔術師の態勢を崩す―――!!
『………ッ馬鹿野郎!!早く防御態勢を取らぬか!!』
え。
「無意識の内に僕から距離を取った貴方の負けです、これで終わりにしましょう」
「―――『聖剣』」
妖術の詠唱より素早く放たれたその一閃は、周囲の木草と建物を巻き込み、 斬られた物の断面は酷く美しく、一切のズレを許さなかった。
――― それを真正面から受けた俺も、例外では無い。
「…………ぁ…」
俺の肋骨より少し下、一刀両断された体は地面へと倒れ落ち、大量の血と臓物がばら撒かれる。
何度も打ち合った事により、その刀に少しづつ傷が入っていたのだろう。俺の黒鶫も刀身が真っ二つに斬られ、その力を失った。
―――負けたのだ。俺は創造系統偽・魔術師に再び殺された。
創造系統偽・魔術師が聖剣を振るう前、ほんの一瞬だけ彼は殺気を放った。 それを感じ取った俺は無意識にその場から少し離れ、距離を取ったのだ。
それが明らかなる敗因、俺が死ぬ理由。
「楽しかったですよ、妖術師」
視界がぼやけ始め、段々と意識が遠くなって行く。このまま感覚全てが失われ、絶命するだろう。
「……………ぁ…あ……」
声が出ない、喉に力が入らない。脳に全ての妖力を注ぎ込んでも、考える事が出来ない。 死ぬ、そして再び俺は遡行する。
これで何度目だろう。
死ぬのはやはり痛いし、恐怖を感じる。このまま遡行せず死ぬのでは無いのかと思うと、やはり怖い。
「………まだ死なないとは、案外しぶといですね」
もう、ダメだ。これ以上は
目線が交差する。時間が止まったかのように二人は静止し、音が静まり返る。
――― ただその中で木の葉が擦れる音のみが、時間の流れを伝える。
先に動いた方の負け、とかでは無い。逆にこの場合は先に動いて一本打ち込める事が出来れば勝ちに近づく。
が、それでも二人は動かない。
「……………ぁ?」
俺の呆気に取られた声。予期せぬその行動が、決戦の合図となった。
聖剣は俺の命を狩り取ろうと、剣先を白く光らせてその存在を主張する。
「………ここからかよ!!」
それに対して、黒鶫は創造系統偽・魔術師を捉える事無く、俺は何も無い空間へと刃を振り下ろす。
突然の奇行、それを見た創造系統偽・魔術師は少々困惑しながらもその勢いを止めることは無かった。
剣先が俺の鎖骨上に浅く刺さり、そのまま喉を斬ろうと奥へと進み続ける。
「………取った!!」
もしこの場に誰かしらが居れば、全く同じ事を思っただろう。確実に妖術師は死ぬと、喉を斬られて死ぬだろうと。
「………空間転移!!」
僅か半径数センチ、大人の親指と人差し指で円を作ったのと同等のサイズ。
剣だけが通るほんの少しの大きさをしたゲートが、突き刺されて斬られるはずの喉に出現する。
………否、そのゲートは喉にあるように見えているだけ。
実際は創造系統偽・魔術師が持つ聖剣、その剣の中心部にゲートを作り、喉に突き刺さったかの様に演出していたのだ。
「……体にゲート……これはなんと厄介な!!」
それをまだ知らない創造系統偽・魔術師は、剣を思いっきり横に振り、俺の首を羽飛ばそうと試みる。
だが勿論、俺の首が体と別れるはずがない。
「……っなに!?」
振り切った後に、ようやく “剣そのものにゲートが出現している” と知った創造系統偽・魔術師。……やはり魔術師と言うのは慢心と無知の塊だ。
剣を振る為には、もう一動作加えないといけない態勢になっている創造系統偽・魔術師の頭を掴み、俺は盛大に頭突きをお見舞いする。
「がァッ!!………クソ、二回目でも痛ぇもんは痛ぇな 」
頭突きを食らった創造系統偽・魔術師は、背中から倒れてそのまま動かなくなった。
………決着がついた、という訳では無い。 次の戦闘に備えての一時的な猶予が俺に与えられた。
勿論、このまま倒れた創造系統偽・魔術師に黒鶫を突き刺し、息の根を止めれば万事解決。
だが今の俺にその気力は無い。
俺は常時使用の “回避の術” と “治癒の術” を解除し、巡らせる妖力は最小限に抑え、”狂刀神ノ加護” から溢れ出る妖力で妖術が使えるまで回復を待つ。
「……こっからは妖力の無駄使いは厳禁だな」
遡行後、二度目の戦い。
少しでも創造系統偽・魔術師に隙を与えれば聖剣が放たれる。そしてそれは不可避の攻撃である事は既に承知済み。
それを踏まえた上での、再戦が始まる。