「俺とターナルちゃんが前衛だ! 後衛は任せたぞ、フィーネ!」
「はい、任されました。そっちこそ頼みますよ。私たちは二人で初めて真価を発揮するんですからね」
フォルテとフィーネは最後にちょっとした確認を取った後、全員で【謳う母】へ立ち向かい走った。
『おい、何だよお前ら……、何をする気だ! 相手は英雄級だぞ?! 特級が数人集まって勝てるようなヤツに、俺らで太刀打ちできる訳がない!』
『そうだ! あのネームド、【連撃のカイネ】すら瞬殺されたんだ』
『それに犠牲になったのは、全員俺らの主戦力だ。このメンツじゃ、確実に死ぬぞ!』
その様子を見た他の冒険者たちは、私たちの行動を理解できない……いや、理解したくないようで寄って集って罵声を浴びせる。
「サービスちゃんよ。ああいうのは無視しときな、こーゆー状況で諦めちまうようなヤツが何人協力してくれたところで、何の力にもなってわくれねぇよ」
「はあ……。サービスじゃなく、サーシスです。それと、間違ってますよ」
フォルテは斧を手に、私は両手にナイフを持って走る。
かなりヤツの近くまで来たが、向こうが何も仕掛けてこない事にフォルテは違和感を覚える。
(何だ、俺らを舐めてでもいるのか? へへっ、英雄級よぉ。本当にそんな様子で大丈夫か? 二十年前の借りは今ここで、返させてもらうぜ)
「フォルテさん、彼らはまだ諦めてません。諦めてるなら、とっくに精神支配されてますよ」
フォルテは、自分らに文句をつけてきた冒険者たちの方をふり返る。
彼らはそれぞれが唇を噛み締めていたり、血が出るまで強く拳を握っていたり、瞬きもせずにヤツを睨んでいたりしていた。
全員、悔しいのだ。
だが、それを表に出さぬように必死に抑えている。
冒険者の基本、『怒りに呑まれるな、自分を制せ』……か。
「へっ、立派なヤツらじゃねぇか。アイツらの分も背負って戦ってやるよっ!」
その時だ。異変を感じたフォルテは足元を見ながら、自身の耳に全神経を集中させた。
(……! 何かが来るッ)
「カーイル! 下だぁぁあ!」
フォルテの叫びと同時に、足元が崩れ、白い閃光が走る。
フォルテは咄嗟に斧を振りかざしたため、ダメージは特に無く、代わりに衝撃で高く飛び上がった。
サーシスの無事を気にし、一瞬目を離した隙に、全ての攻撃がフォルテへ牙を剥く。
(クソ……、間に合わんっ!)
フォルテはその時、目にした。 ヤツが何で攻撃をしてきたのかを。
それは腕だった。無数の腕を大木の根のように忍ばせておき、間合いに入った瞬間にそれで襲ったのだ。
仕掛けてこない? 前言撤回、ヤツは確実に俺らを殺す準備をしていた。
(はぁ、俺もこれで終わり……なわけ)
「ねえだろおぉぉお!!」
空中でバランスが悪く、力も入れにくい。 敵の攻撃は180°、正面全体を完全に囲っている。
最高に危機的な状況。それでも、最後まで諦めはしない。
フォルテは自身と仲間を信じ、力を振り絞って斧を振った。
「フォルテ! 使ってください!」
「ナイスだ、フィーネ!」
フォルテの足元が崩れる瞬間、フィーネは既に魔法を放っていた。
そこで、使われたのは単なる基本属性魔法では無く、彼の【固有魔法】だ。
フォルテはその魔弾を斧で受け止め、それをそのままヤツらへ向ける。
この様子を見ていた冒険者はその時、何が起こったのかわからなかった。
何と一瞬にして、フォルテを囲っていた腕が全て崩れさったのだ。
そしてそれは、単なる斧による攻撃の跡なんかでない。
明らかに触れていないであろう範囲まで、効果が及んでいた。
そして、その冒険者は次の瞬間、更に驚くこととなる。
気づいたのだ、何かがおかしいと。フィーネの放った魔弾の通った後の空間が明らかに歪んでいたのだ。
「悪いね【英雄級】。こちとら、最高の相棒と一緒なんだわ」
フィーネの【固有魔法】。それは波。あらゆるものを揺らし、波を発生させる。
フォルテの【固有魔法】は特殊で、 魔法効果の増大化。
まあ、相性もあるようで全ての魔法に適応できるほど便利な訳ではないが、少なくともフィーネの魔法では問題ない。
今のはフィーネが起こした波をフォルテが増大化させ、空間で圧縮させて腕を潰したのだ。
これが冒険者歴二十年。二級戦士フォルテと二級魔道士フィーネのコンビネーションである。
「ナイスです。フォルテさん、フィーネさん」
「その声はサーシスさん! 無事だったのですね」
「ええ、まあ。速さと回避を武器にしてますので……」
サーシスは上手いこと空中の瓦礫を蹴って攻撃を躱し、数本の腕に斬りかかりながら戦っていたようだ。
「でも、すみません。私の攻撃力では傷は付けられそうにないです」
「大丈夫や、アーニックちゃん。俺も単体じゃあ、通用するか微妙や」
「フォルテさん、ここは一度距離を取りましょう。そろそろアレが来るはずです……」
「そうだな、アレか……」
二人は警戒しながら、後ろ走りで距離を取る。
これが逃げたという判定になるのかが不安ではあったが、精神が屈してさえいなければ問題は無いようだ。
すると、突如ヤツは両手を上げた。
そして、まるで祈るように、救いを求めるかのように手を握り、天を見つめる。
その姿はこんな不気味なダンジョンの、強力なモンスターとは思えないほどの美しさを纏っていた。
ヤツの頭上が突如輝き出し、そこに魔力で生成された光の輪が現れる。
この動作は【謳う母】が戦闘態勢に移行した証拠らしい。
つまりは……
「ここからが本番って訳か」
私たちは三人は、いつどこから襲われても良いように背中を合わせて構える。
フォルテは斧を、フィーネは杖を、サーシスはナイフを強く握った。
【謳う母】が【Walking Dead】と呼ばれているのには実は、その危険度を示す他にも理由があった。
サーシスらを囲うように地面が盛り上がり、中から【死民】が現れる。
ヤツが【Walking Dead】と呼ばれるもう一つの理由。
それはこのモンスターを召喚するところにある。
【死民】三級モンスター。人の骨を模した形をしており、黒いマントを着ているのが特徴。
出現場所は九〜十二階層。
種族は同じでも能力値に差のある、比較的珍しい特徴を持つモンスター。
更に差があるのは、能力値だけではない。
「来るぞ! フィーネ!」
「はい!」
ヤツらは黒い鎌を取り出し、襲いかかってきた。
対して動こうとしない個体もおり、ソイツらは鎌ではなく、杖を持って魔弾を撃つ。
そうこれが、【死民】の最大の特徴。
武器による近距離攻撃型と、魔法による遠距離攻撃型の二種が存在する。
そしてそれは、戦闘に入るまで見分ける事が不可能。
【謳う母】がわざとそうしたのか、フィーネに鎌持ちが集中しており、フォルテには逆に魔弾使いが集まっている。
圧倒的不利。
今、この盤面を崩せるのは彼女……サーシスしかいなかった。
「ここは私がやります!」
それだけ言うとサーシスは、フィーネに向かってきていた鎌持ちに突っ込んでいった。
二体の攻撃をスライディングで躱し、身体を捻るとソイツらを掴んで飛んできた魔弾にぶつける。
二体が消滅し、残った鎌を宙へ放り投げ、ナイフを投げて魔弾を構えていた四体を倒す。
空かさず襲ってきた、鎌持ちの攻撃をいとも簡単にしのぎ、カウンターの一撃を腹に入れる。
全ての【死民】はサーシスを脅威と認識し、一斉に襲いかかる。
サーシスは左足で地面を蹴り上げ縦に回転。正面と背後の敵を蹴り飛ばした。
横から来た者には先ほど投げた鎌が落下し、合計十六体の【死民】を討伐。
そして、この全てを一瞬にして完遂してみせた。
その一人の少女の実力にフォルテやフィーネ、この場にいた全ての冒険者を驚く。
通り名どころか、名すら知られていない少女が、一級にも匹敵するかもしれぬ動きを見せたのだ。
『勝てる……かもしれねぇな』
一人の冒険者がそう言葉を零すと、他の者たちも徐々にその空気に呑まれていく。
『相手が何だ! 【英雄級】が何だ! 俺たち冒険者が協力すりゃあ不可能はない!』
『あんな子供が戦っているのに、私たちはこのまま立ち尽くしていられるの……?』
『どうせ死ぬならぁ、格好良く終わろうぜ……』
冒険者たちの足が動き出す。
『フォルテさん、フィーネさん。俺、初心者の時にあんたらに助けられてるんすよ。また同じ事になるところでした……。今度は俺が助ける番です!』
その者の言葉は冒険者の心深くを動かし、それはどんどん伝播していった。
今、二十近くの冒険者パーティー。五十にも及ぶ冒険者たちの心を一つとした。
『ピギャアァァァァァ』
「何だ……、【謳う母】が悲鳴を上げている!?」
「アレを見てください! ヤツの胸に亀裂がっ!」
『奥義……全羅万象!』
その無駄に恰好付けて技名を叫ぶ、聞き慣れた声がすると【謳う母】の胸は十字に切り裂かれた。
その亀裂から一人の男が姿を見せ、その者は剣を天に向ける。
『カ、カイネさんだ! 死んでなかったあっ!』
『勝てるぞ。この勝負勝てるっっ!』
うぉぉおっ! と一気に歓声が上がり、空気が一変する。
カイネは叫んだ。
「勝ち筋は、今ここに在るっっ!!」
コメント
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戦闘ファンタジーみたいなのかけるのめっちゃ尊敬 私の書くファンタジー全部絵本みたいなるからw 続き待ってまーす!