ギシッとベッドが揺れる。
長峰がベッドに座ったのだ。伸びてくる手をぼんやりと追う。長峰の冷たい手が私のおでこに触れた。
「冷たくて気持ちいい」
「ここにいるから、少し寝てください」
「……うん」
ああ、これって夢かな。それか幻覚? 高熱にうなされて何か妄想しちゃってるやつ? まあ、なんでもいっか。長峰がここにいてくれることが嬉しいんだから。
あ、そうか。初詣で神様にお願いしたから。なんかいい感じにしてくださいって祈ったもの。そのご利益がこれかしら。熱が出てしんどいけど、役得ってやつ。
それにしても長峰の手、冷たくて気持ちがいい。相変わらず冷え性なのね。そうだ、手袋も返してなかったじゃん。後で返さなきゃなぁ。
高熱が思考を鈍らせる。
おでこに当てられていた手を取って、首元へ持っていった。
ひやっとした感覚が体を落ち着かせる。
「気持ちいい……」
「……熱すぎ。よくそんな高熱でさっきまで啖呵を切っていられましたね」
「……だってあいつ勝手に入ってきたし」
「合鍵?」
「うん、返してもらうの、忘れてた。……それだけだよ」
「……」
「……それだけなの」
誤解されたくない。貴文がここにいて、長峰はどう思っただろう。未練がましいとか思われてないかしら。変な風に思われてたら嫌だなぁ……。嫌だよ……。
なんでか、目元を拭われた。
「……泣かなくても」
「……」
知らないよ。なんでか溢れてくるんだもの。
長峰はそのたびに優しく拭ってくれる。
ひんやりしていた指先はいつの間にかあったかい。
あったかいなぁ……。
「…………ながみね……すき」
無意識に告白していたみたいだけど、当の私にはそんな自覚はなく。ポロッとこぼれた言葉がどんなふうに長峰に伝わったかはわからない。
ただ気持ちよく、意識が遠のいた。