テラーノベル
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シーツの海に沈みながら、私は隣で静かに呼吸を整える真司の横顔を眺めていた。
眼鏡を外した彼の横顔は、いつもよりずっと幼く、どこか危うい。
「……ねえ真司。今更だけど…あれって、本気なの?」
「あれって?」
彼は視線を天井に向けたまま、少し掠れた声で聞き返してきた。
「ずっと好きだった、って言ったこと。…私はずっと、仕事のライバルだと思ってたのに、いきなりすぎて」
真司はふっと短く笑うと、上半身を起こして私を見下ろした。
その瞳には、今まで見たこともないような深い陰影が落ちている。
「ライバルだよ……亜希が必死に資料を作ってる姿も、プレゼンで緊張して指先を震わせてる姿も、全部見てた」
「じゃあ、どうして…」
「誰よりも近くで、亜希が頑張ってるのを知ってたから……あいつと幸せそうにしてるのが、耐えられなかったんだ」
真司の大きな手が、私の頬をそっとなぞる。
その指先が、壊れ物を扱うように優しいことに、胸の奥がツンと痛んだ。
「亜希が俺をライバルとして見てる間、俺は亜希を奪うチャンスをずっと狙ってた。……最低だろ」
「そんな、別に……私、全然気づかなかったし。最低なのは、その気持ちをちっとも知らずに、相談なんてしてた私の方じゃないの」
真司は何も言わず、私を強く抱き寄せた。
彼の心臓の音が、私の背中に直接響いてくる。
「亜希。……俺は、一夜の過ちにするつもりなんて最初からない。なんとしてでも亜希の頭の中、俺でいっぱいにしたかった」
「……もう、たくさんよ。とっくに」
私は彼の広い背中に腕を回し、顔を胸に埋めた。
これまでは、身体の関係を持つことにどこか後ろめたさを感じていた。
でも、彼の長年の想いを知った今、私の心はすとんと腑に落ちるように、彼を受け入れていた。
「……真司。私、もう元カレのことなんて思い出せないくらい、あんたのこと意識しちゃってるんだけど」
「……マジで?」
「あんたのせいでしょ…っ」
真司の腕にさらに力がこもる。
私たちは、単なる「同期」という役割を脱ぎ捨て
一組の男と女として、ようやく本当の意味で結ばれたのだ。
けれど、幸せな予感に包まれる私たちの背後で
あの恵麻の冷ややかな視線が、すぐそこまで迫っていることを、この時の私はまだ知らなかった。
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