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一泊二日の出張を終え、夕暮れ時のオフィスビルへ戻ってきた。
「お疲れ様。報告書、明日まででいいよな」
真司が、周りの目がある場所ではいつもの「デキる同期」の声色で言う。
けれど、すれ違いざまに私の指先に彼の手が触れた。私だけに分かる、秘密の肯定。
幸せの余韻に浸りながら、退勤のタイムカードを切ってビルを出た、その時だった。
「……亜希!」
聞き覚えのある、けれど今はもう嫌悪感しか抱けない声。
植え込みの陰から現れたのは、直樹だった。
少しやつれた顔をして、縋るような目で私を見ている。
「直樹…っ、どうしてここに」
「メールしただろ? 会いたかったんだ。やっぱり君がいないとダメだって気づいて……」
直樹が私の腕を掴もうと一歩踏み出した。私は思わず身を引く。
その瞬間、私の前に、大きな背中が割り込んだ。
「……何してる」
真司だ。
彼はいつの間にか私の前に立ち、直樹の手を鋭い力で振り払った。
その目は、オフィスで見せる冷徹さとは比較にならないほど、凍りついている。
「誰だ、お前。……あ、もしかして同期の真司さん? 亜希から聞いたよ、でも、ただの仕事仲間は引っ込んでてくれますか?」
直樹が挑発するように笑う。
真司の肩が、微かに震えるのが分かった。
「ただの仕事仲間……? 悪いけど、そのフェーズはもう終わったんだよ」
真司は私の肩を力強く抱き寄せ、直樹を冷たく射抜いた。
「俺の女だから。二度とコイツに関わるな」
「は……?」
直樹の顔が驚愕に染まる。
私も、真司の突然の宣言に心臓が跳ねた。
秘密にしなきゃいけない、バレたら困る。
そう思っていたはずなのに、彼の「俺の女」という言葉が、震えるほど嬉しかった。
「真司さん、それ……本気で言ってるんですか?」
背後から、冷ややかな声が響く。
振り返ると、そこには恵麻が立っていた。
彼女は手に持っていたスマホを、まるで見せつけるように握りしめている。
「社内恋愛は禁止じゃないけど……これ、社内で噂になったら、佐藤さんの査定、どうなるんでしょうね?」
直樹の執着、真司の宣言、そして恵麻の冷徹な視線。
夕闇のオフィス街で、隠していたはずの秘密が、最悪の形で暴かれようとしていた。