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伊藤啓司は退屈だった。空が落ちる令和幾年の現実‐REALの世界情勢は戦火の大地に放たれた大日本という名の“君が代”破滅……死神界のノートは書かれた生物の命を終わらせる悪魔の神器。達観したZ世代のインフルエンサー達の【空虚】、【腐風】パーティ・ナイトは毎日の歯車の滑車に廻された下々の集い。壊れたメシアの来訪者を待ち侘びる新世界への片道切符、奪い合い、醜いハッピーエンドの争奪戦。都民はその場しのぎの最中、街頭ビジョンとプロジェクションマッピングに釘付けのスマホ依存(沼の中毒者)足る傷の舐め合い。啓司は自らの“生”を研ぎ澄まし日々をただ歩む箱庭の偽りのエデン、桃源郷は闇墜ちした10%の血液型のマグマを煮え滾らせる……母は忙しない学生服の彼の後ろ姿に聞いた。
「健康診断、コロナワクチンの注射の結果は? AB型は蚊に刺されやすいのかしら、父さん」
「あいつに限って万が一の事も無いだろう。心配性は相変わらずだな」
両親は共働きのアパート暮らし、最早他意など皆無…級友仲間に囲まれた学生生活は楽しい、一度切りの人生という白地図に日常を染めてゆく【ちっぽけ】な存在。通学路はしんしんと雪降る極寒の地、足音に耳を澄ませば真冬の匂いが鼻先を擽る17才の人生設計図に狂いなど無い。少なくても自分自身の身の丈は重々理解した寒空の下の讃美歌は奏でられる。
「センター試験どう? 私論破済み、LINE送って」
「冬マジうざい! 卒アルに刻みてえ」
女子高生の列が三々五々散りゆく景色は名も無き詩の東京の街に咲いた一輪の薔薇……教室はいつものメンバーが購買部に行き急ぎ勉学に勤しむ季節の到来。啓司はHRの日直、担任の教師は眼鏡を掛け直し薄い頭髪を掻いた。
「伊藤君。冬休みの行事の書類に書き加えて、皆さん」
「先生。俺等偏差値大丈夫ですか? 志望校とりまキープな、公務員になって安定街道進むわ」
「啓司! 何か言え!!」
「まあまあ……一時限目は移動教室です。理科係は暖房と実験器具の用意を」
「はーい」
チャイムが鳴る。虚無主義のニヒリストは数少ない今までの人生の教訓となって俺の身体の一部と化す、男子グループが肩を叩く。
「昨日、彼女とLINE通話しまくった。タダより安いものは無ェ。お前も作れ」
「ベタベタするな」
理科室の照明が暗転した。言葉を失う一同……俺は廊下で機材の確認をしていた、その時。
『暇すぎて死ぬ。そう思うだろ、お前も?』
啓司の真上に黒い翼をはためかせて死神は微笑む。凍り付く時間、9時7分……学園祭の肝試しの余興か? 俺は奥歯を噛む。
『冷静な男子だな。幸せなんてくれてやる、ホラよ』
一冊のノートが渡される。啓司は口外しなかった、全ての発端の始まり……神話は紡がれる。
『悪い方の神だけどな、ここから先は自由人だぜ? 相棒』
「俺に指図するな。説明しろ」
死神のノート=DEATH NOTE。名前を書かれた生物は死ぬ、その他のルールは楽しみながら知れ。少年、名は?
「伊藤啓司。お前も名乗れ」
『リューク。ひねくれた性格は似た者同士だな、試してみるか? 殺したい奴を書け』
「貸せ」
『……慎重に行動しろよ共犯者。一瞬の隙が命取りだぜ?』
啓司は友の声を聞いた。スマホの明かりを頼りに近づいて来る人の気配に真黒のノートをブレザーの下に隠す、核心の確信! リュークの姿と野太い地声は彼にしか聞こえない“新世界の神“からの手招き? 絶望の輪舞曲? 答えはたった一つの真理。
「何があった」
新米教師の女が白衣を揺らし状況を確認する。ざわつく皆は俺を中心に【台風の目】と成り一抹の恐怖心を抱かせる朝の儀式。禊は終わった、啓司は立ち上がりネクタイを締め直す。
「伊藤君。停電かも、一先ず教室へ……自習にするから」
「先生! メスシリンダー何処ですか?」
『ククク……お手並み拝見だな? カミサマ初心者』
リュークは灰空に消えて行った。名前を書いたら死ぬ……俺に托された審判の裁き。警察や野次馬の仕事をナメてはいけない、化け物も阿保では無かった。啓司は落ち着きを取り戻しクラスメイトを一瞥する事実無根の【統制】、【対価】を手に入れた……俺がこんな腐った世界を変えてやる。
「ただいま」
誰も居ない、12時の帰宅。テスト勉強と親孝行という名の天罰が始まる“歴史の改変”! 椅子に座りノートを開いてみる、新品同様の木々の匂いが白紙と“永世の夢現”を垣間見た彼の強さが試される時、スタート!
『書けよ偽善者。世の中なんて汚い大人の姥捨て山さ』
「黙れ」
気が付いたらパソコンを開いて早々と情報を収集してゆく彼の所作を魅入っていたリュークは暇そうに台所のキッチンを覗く、パインのスムージードリンクを飲み干した遊戯の痴態は彼の精悍な意思の前に敗れ去る!
『伊藤家の食卓……か。反抗期も無く穏やかな家族団欒の光景、啓司』
「それ以上喋ったら殺す」
クソガキ。中学校の卒アルの彼は屈託の無い笑顔で満身創痍に見える、ニンゲンも様変わりする者。何事も一期一会、さてと。
『此処がお前の育った環境下、令和の暴走する経済政治の犠牲者の一人』
「40秒以内で心臓麻痺。死因の説明と手引書は嘘か真か」
『お前の為に言っておくが……』
「言え」
一人と一匹しか居ない居間のリビングに物々しい空気が流れゆく宿命の瞬間、シャープペンシルの手が止まった。
「テレビを点けろ」
『あいよ、ご主人様』
真昼のバラエティーは台本頼みの只のTVショー、背負え民人。ザッピングしたチャンネルは全世界指名手配犯のショッキングな報道に変貌した……生中継のLIVE!
「行くぞ」
『学力の程は幾らか……と、自己満足の承認欲求なんぞ取り消せよ。殺し屋のアサシン?』
「俺も同じか? 一冊の手記で恐怖政治の説教【ゲンコツ】ドリーマーの戯言、これが現状」
『上等。見せしめだ、大人の階段上れ啓司』
スタジオは殺気立つ! 血反吐を吐き捨てて倒れ込むアナウンサー……時が制止する、これが俺達の、否俺の力。生死の魔力を授かった若き扇動者は横目で眺めゆく。画面が可愛げの有るCGに変わり凄惨で身の毛も弥立つヴィジョンと隔たれた!
『な? 本物さ。人生サイコーだろ救世主』
「保管方法と建前の台本を書け死神」
『言うね……度胸と平静さは買った。イエス・キリストも真っ青だな、聖書でも本屋からパクッて来るか?』
「成れるんだろうな、誰もが羨む母国(大日本)に。人の所為にしたら名前書くぞ」
日が沈みかけて母が帰宅した、悪魔との共生……ノートの確執が明晰夢の中まで聞こえて来た。凶悪犯罪者の死は彼の人生を左右する叙事詩と成りて姿形を変える【神聖白書】、将又【暇潰しのレポート】?? 母は優しかった。
もうすぐ冬休み、クリスマス、正月。啓司は目を閉じてスマホの電源を消した。明日は来る……是が非、甲乙、丁半!?
『レムにチクってやる。傍観人はタダ働きで高月給ってな、しかし……伊藤啓司か』
歴史が動く、もうすぐ。
「文章~まだ??」
「うん。今行く」
終業式は半同棲中のカップルの色恋に光輝くそれぞれの道半ばの志の途中だった。耀子は腕を組み彼との愛を説く!
「今度、役所行かなくちゃ。婚姻届けと両親の挨拶」
「僕に全部任せて」
「頼りな~い、不合格!!」
啓司は靴箱を開けて1学期最後の青春を謳歌する。誰しもが気付いていない自分の正体……俺次第の生命、リュークは辺りを見渡しゆく。
『女との駆け引きも上手そうだな。おっと、ご謙遜』
「二度と喋るな」
パトカーのサイレンの音が鳴る、物騒な雰囲気に学び舎が包まれた。映画やドラマで見た黄色のビニールテープ? リュークが静かに察する。
『合コンは二次会へと突入……と。俺もノートにメモしなきゃ』
「伊藤君! 悪い、今何時?? 彼氏のスマホ壊れててさ」
誰だこの女? 同じクラスの山形耀子……何だ、居るじゃねえか。死神はそっと胸を撫で下ろした。
「事件は現場で起きている。警部補の勘はハイエナ並ってな、清野!」
「先輩、自分まだ殉職したくないっス! 警視庁はアメリカンポリスの夢想でお腹一杯すよ」
刑事達が校門前にマークした、DEATH NOTEを巡る戦いの火蓋が切って落とされた!
「さよなら。文章! ガッコ終わったら動物園デートね」
「今日午前中だけだね、来年でも車の免許取りに教習所行かなきゃ」
「うんうん。働く働く!!」
リュークと共に暗雲立ち込める新しい死神・レムが異界の門(ゲート)を示唆した。新参者の予感……。