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#異世界転移
花月夜れん
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「ギル! 今日も剣の稽古をするぞー!」「はーい! 今行くよ、父さん!」
俺は、とある長閑な小さな村で、人間の少年として新しい生を受けた。
今の俺には、たくましくて頼もしい父と、いつも温かい母、そして何事にも全力で賑やかな二人の兄がいる。家族の仲はすこぶる良好で、日々の暮らしはお互いを支え合い、笑い声の絶えない幸せに満ちていた。
──けれど、物心がついた頃から、俺の胸の奥にはかすかな違和感が居座り続けていた。
どこまでもどこまでも続く、青々と茂る異国の深い緑。
村人たちの頭上に広がる、桃色や銀色といった見たこともない色鮮やかな髪の毛。
そして、この世界に当たり前に存在する“魔法”という不思議な力。
幼い頃から、村の大人は揃って俺のことを「物覚えが異常にいい」「まるで中に大人が入っているみたいに落ち着いている」と驚き混じりに褒めそやした。まるで――この身体の中にいる俺が、本当の俺ではないような、どこか宙に浮いた奇妙な感覚。
(……でも、それは全部ただの気のせいなんだろうな)
そう思おうとしていた。
流れる平和な日々。愛してくれる家族。
なに一つとして不満などない、恵まれた第二の人生。このささやかな幸せがずっと続いていくのだと、俺は疑っていなかった。
────────
ある日の夕食時。
「明日は何の日か、お前たちは覚えているか?」
堅いパンを豪快に頬張りながら、父さんが不意に俺へ問いかけてきた。
「もちろん! 久しぶりだろ!?」
「あー、楽しみだなあ! ご馳走食えるかな!」
向かいに座る兄たちが、目をキラキラと輝かせて身を乗り出す。
「明日、何か特別なことでもあるの?」
俺が首をかしげて尋ねると、父さんは口元のパンくずを拭い、豪快に笑った。
「ああ、そういえばギルにはまだ詳しく話していなかったな。明日はな、近くの霊峰に住んでいるウルフ族のひと組が、この村にやって来る日なんだよ。あいつらが里に下りてくるのは本当に久しぶりなんだ」
はるか昔に起きた大戦争が終結し、種族同士の無益な争いはこの大陸から消え去っていた。
この村とウルフ族は、かつて共に血を流して戦い抜いた“戦友”として、今も定期的に交易と交流を続けているのだという。
「ウルフ族の長であるギルバートに、俺と同じくらいの息子がいてな。ちょうどギルと同い年なんだよ」
ギルバート――父さんが若かりし頃の冒険者時代に知り合った、昔からの無二の親友の名だ。
「ちなみにな、お前の『ギル』って名前は、あいつの名前から取ったんだぞ」
そう言って胸を張る父さんに、母さんもくすくすと嬉しそうに笑う。
「楽しみねえ。あの方たちは大食漢だから、明日は朝から腕に選りをかけてご馳走をたくさん作らなきゃ」
「へえ……ウルフ族か」
俺はスープを飲み下しながら、まだ見ぬその獣人の少年に少しだけ思いを馳せた。
────────
翌日。
澄み渡る秋晴れの下、村の入口が賑やかな歓声に包まれた。
「おっーーー! ギルバート、久しぶりだなあ!」
「ガルグ! お前も相変わらず元気そうじゃないか!」
街の門をくぐってやってきたのは、ウルフ族の一行だった。
艶やかで美しい毛並みと鋭い爪を持つ彼らは、一見すると圧倒されるような威圧感を放っていたが、その瞳や浮かべる表情は驚くほど穏やかで温かい。
「おっ、この子がギルか! 初めましてだな、俺はギルバートだ。よろしくな、小僧!」
がっしりとした大きな手で握手を求めてきたウルフ族の男――ギルバートは、立ち振る舞いも雰囲気も、どこか俺の父さんに似た温かみを持っていた。
「俺の自慢の息子を紹介しよう。おーい、ガルフ! さっさと前に来い!」
――ガルフ。
父さんの名前である“ガルグ”が由来らしい。
どんだけ親同士の仲がいいんだよ、と俺は心の中で小さく突っ込んだ。
「こいつが息子のガルフだ。ギル、仲良くしてやってくれよな」
促されて前に出てきたのは、一人のウルフ族の少年だった。
毛並みは灰色で、年齢も、背丈も、驚くほど俺と同じくらい。
――そして、ふと視線が交差した。
目が、合った。
次の瞬間。
バチンッ、と音を立てて空気が弾けたような錯覚に襲われた。
頭の深幹、魂の根本に直接触れられたような、言葉では到底説明のつかない激しい衝撃。
(なんだ……これ……っ!?)
胸の奥が、締めつけられるように痛い。
懐かしくて、切なくて、愛おしくて――でも確かに俺自身が“知っていた”巨大な何かが出口を求めて暴れ出す。
――あの火災の夜、鈴と運命的に出会ったあの日。
――狭い部室に籠もり、朝まで夢中で音楽を作っていたこと。
――初めて『Re:note』というバンドを組んだ時の、あふれんばかりの喜び。
――熱気に満ちたステージの上、4人で鳴らし、全身で響かせた“あの音”。
忘れていたはずの、けれど決して失われていなかった“あの音”が――津波のような怒涛の勢いで胸へと戻ってくる。
遠くで、懐かしいみんなの笑い声が聞こえた気がした。
頬を温かい涙が伝い落ちていくのを感じる。
頬を撫でていくのは、異世界の風ではなく、あの日本の夏の日の風だ。知らないはずの、けれど愛おしい風景が、閉じた瞼の裏で黄金色に光り輝いていた。
思い出した――すべてを、俺は。
(――俺は……一ノ瀬怜央だったんだ)
「…………」
「…………」
突然訪れた静寂の中、呆然と固まる俺たちの前で、先に声を漏らしたのは向こうだった。
灰色の毛並みを持ったウルフ族の少年が、目を見開いて震える口を開く。
「な、なあ……お前……怜央……だよな?」
「あ……ああ……お前は……隼人、なのか……?」
「うわあああ! 久しぶりだな!!! 怜央ーっ!!」
「隼人!! まさか、こんな形で再会するなんて……!」
次の瞬間、俺たちは言葉もなく互いに抱き合い、声を上げて笑った。
身体は人間とウルフ族。お互いにぎこちない体格の違いはあったけれど、繋がった心は一瞬にしてあの青春の日々へと引き戻されていた。
「い、今、急に頭がグワーッてなってさ! 全部思い出してパニックになりかけたぞ!」
「ああ、お前もか! 俺も今、全身の鳥肌が止まらねぇよ!」
溢れ出す懐かしさと再会の喜びに、2人の目頭はじんわりと熱くなった。
そんな俺たちの異常な様子を見て、大雑把で細かいことを気にしない父さんたちは「なんだなんだ、お前たち知り合いだったのか?」と不思議そうに首をひねるばかり。だが、大した追及もせずに「子供同士、すぐに意気投合したなら重の幸いだ」と勝手に納得し、自分たちの酒と昔話の話題に夢中になり始めてしまった。
大人たちが離れたのを見計らい、最も重要な問いを隼人に投げかけた。
「……なぁ隼人。他の二人はどうなった? 鈴と明里は……どこにいるか分かるか!?」
隼人は一瞬だけ表情を曇らせ、頭を掻きむしった。
「分からねえ……。少なくとも、俺が生まれ育ったウルフ族の集落や近くの村には居ねえと思う」
「…………」
一瞬の沈黙。
俺は隼人の両肩を掴み、喉が千切れんばかりの大声で叫んでいた。
「じゃあ、二人は一体どこにいるんだよーーっ!!!!」
異世界の青空の下、俺たちの新しい探す旅が、今まさに始まろうとしていた。
コメント
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めっちゃアツい回だった…!転生先でバンド仲間の隼人と再会して記憶が一気に戻るシーン、涙腺に来たわ。お互い名前で呼び合うところとか「久しぶりだな!」って抱き合うところ、ガチでグッときた。残りの2人はどこなん…続きが気になりすぎる🔥