テラーノベル
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「とりあえず、これからどうするか決めねぇとな」俺の言葉に、ウルフ族の少年となった隼人が深く頷いた。
「ああ。まずは……あの日、二人と別れてから何があったのか整理しよう」
俺が前世の最期の記憶――火災の煙と瓦礫の中で過ごした地獄のような数分間のことを語ると、隼人は息を呑み、静かに目頭を押さえた。
「なるほどな……。気づいたらこの世界で、別の赤ん坊として目を覚ましていたのか。俺とまったく同じだな。ていうか、異世界転生なんて本当にあったんだな……。漫画や小説の世界だけの話だと思ってたぜ!」
呆れ半分、興奮半分といった様子で隼人が吐き捨てる。
俺たちの最終的な目標は、離れ離れになった鈴と明里の二人を探し出し、もう一度集まることだ。そのためには、自分たちが生きているこの異世界のルールや構造を、もっと深く知る必要があった。
「よし、とりあえず手当たり次第に情報を探してみよう」
それからというもの、俺たちは村の人々の手伝いを積極的に買い出でながら、世界の知識をかき集め始めた。人間とウルフ族をはじめとする種族間の情勢、世界を満たす“魔力”や“魔法”の仕組み――目にするもの、耳にするものすべてが新鮮で、初めて尽くしの毎日だった。
村の誰かが近くの大きな街へ買い出しに行く時には、頼み込んで必ず同行させてもらった。
活気に満ちた街並みや行き交う人々の姿を観察し、二人の手がかりがないか目を光らせる。けれど、どこの街を訪れても、彼女たちの気配や噂を掴むことはできなかった。
「なあ怜央、あそこ……見てみなよ」
ある日、街の賑やかな大通りで隼人が指さしたのは、重厚な木造建築の建物――『冒険者ギルド』だった。
「冒険者って、いろんな土地を旅して回るんだろ? ギルドの情報網を使えば、もしかしたら二人のことを何か知ってる奴がいるかもしれねえぞ」
「たしかに一理あるな……。でも、俺たちみたいな子供の戯れ言に、本気の情報をくれるとは思えない。それに『鈴』や『明里』に似た奴なんて、広い世界を探せばそこら中にいるだろうからな」
「うっ……それもそうか。……あ! だったらさ、俺たち自身が冒険者になればいいんじゃね!?」
「……は? 俺たちが?」
「そうだよ! 自分たちの体を極限まで鍛えて強くなれば、大人の目を気にせず自分たちの足でどこへでも行けるだろ! 好きなだけ、何年かけてでも探せる!」
「理屈はわかるが……お前、ウルフ族の村長の息子だろ? 勝手に村を出てそんなことしていいのかよ」
「んー……まあ、“修行の一環”ってことにしとけば親父も納得するだろ! 要は気合いだ、気合い!」
豪快に笑う隼人の勢いに呆れつつも、俺はその提案を飲むことにした。ただじっと奇跡を待つより、自分たちの足で歩き出す方が性に合っている。
こうして、俺たちは正式に“冒険者”を目指すことを決めた。
この国で冒険者としてギルドに登録できるのは、7歳で行われる『魔力測定の儀式』を終えてからだ。まだ6歳の俺たちは今すぐに登録することはできなかったが、その分、今のうちに圧倒的な実力をつけておこうということになった。
家に帰り、父さんに「強くなって冒険者になりたい」と相談すると、父さんは驚くどころか「男ならそう来なくっちゃな!」と大喜びで稽古を引き受けてくれた。隼人もウルフ族の集落で、ギルバートおじさんを無事に説得できたようだ。
それからの毎日は、地獄のような鍛錬の日々だった。
剣の扱いから始まり、弓、斧、槍といったあらゆる武器を試し、自分たちの適性を探っていく。
「ガルフは絶対、大剣だな! その恵まれた骨格と力強さには、大剣の豪快な一撃がよく映える!」
「ほんと!? やったー! 大剣とか超かっけぇ!」
父さんの言葉に、隼人はウルフ族特有の灰色のしっぽをブンブンとちぎれんばかりに振って喜んだ。
「で、ギルは……短剣だな。正面から馬鹿正直に殴り合うタイプじゃないし、気配を殺して急所を突く暗殺系の方が向いているかもしれん」
――さすがは元・腕利き冒険者の父さんだ。見立ては完璧だった。
様々な武器を握り比べた中で、最も自分の手に馴染み、身体の延長のように扱えたのが二本の短剣だった。
「さあ、二人ともまとめてかかってこい! 手加減は無しだ!」
広大な訓練場で、相手は父さん一人。しかも完全に素手だ。
圧倒的なハンデを設けてもらったはずなのだが、今の俺たちが勝てる可能性は、ほぼゼロに近かった。
試しに俺が踏み込んで距離を詰めてみたが、短剣の刃が届く前にさらりと紙一重でかわされてしまう。
「はやっ……! ガルフ、まずお前が動け。正面から気を引いてくれ!」
「任せろ!」
俺が小声で指示を出すと、隼人は咆哮を上げて正面から突っ込んでいった。
――速い。
まだ型は拙いものの、身体能力の高さはさすがウルフ族といったところか。圧倒的な俊敏さで、剣技の未熟さを十二分に補っていた。
「おおっ!? やるじゃねえか、ガルフ!」
父さんが楽しそうに笑いながら、隼人の大剣を素手で軽々と弾く。
――よく見ろ。隙はどこだ? 親指の重心、膝の曲がり具合、親父はどういう体の使い方をしている?
父さんは圧倒的なパワーと打たれ強さを誇る重戦士タイプだ。だが、身体が大きいゆえに、どうしても生じる死角が存在する。
「……試してみるか」
隼人が前に出て猛攻を仕掛け、父さんの意識を完全に正面へ惹きつけたその瞬間――俺は足音を完全に殺し、父さんの背後へと忍び寄った。
スピードでは隼人に劣るが、気配を消すことだけに意識を集中させる。死角から滑り込み、短剣を迷いなく振り下ろした。
狙いは――すね。いわゆる“弁慶の泣き所”だ。
「いッてぇぇぇつ!?」
メリッと嫌な音が響き、父さんが悶絶しながら大きく後退した。
――どんな強靭な戦士であれ、防具のないあそこを叩かれれば痛いものは痛い。
⸻
その日の稽古終わり、木陰で休憩していた父さんとギルバートおじさんの会話が、風に乗って聞こえてきた。
「君の息子……なかなかやるじゃないか」
「まさかあんな身体能力が高いとはな……。将来が楽しみだな!」
「ガルフの奴にも驚かされたよ。まさかあんなに足が速くなっているとはね」
「ああ。だがギルもすごいぞ。あいつ、気配を消して隠れるのが昔から異常に得意だったが、ありゃもう才能の域だ。意識せずに自然と気配を断っている。完全に暗殺や隠密向きの動きだな」
「でもさ……どうやったら、君みたいな単純で熱血な親父から、あんな落ち着いた子が生まれるんだろうな? 変に冷めてるというか、大人びているというか……」
「うーん……ま、気にすんな! 細かいことはいいんだよ、結果オーライだ!」
「ハハハ、違いない!」
――木陰の物陰でこっそり会話を聞いていた俺は、冷や汗を流しながら内心で焦り倒していた。
(……危ねぇ…)
俺は親父たちのどこまでも大雑把で楽天的な性格に助けられたことを、心から感謝したのだった。
⸻
数年後。
俺たちは来る日も来る日も身体と技を鍛え上げ、ついに目標であった“冒険者”としての第一歩を踏み出す日を迎えた。
7歳になり、魔力測定を無事に終えた俺たちは、街の冒険者ギルドの扉を叩いた。幼い子供二人だけで訪れたため門前払いされるかと身構えていたが、カウンターの受付嬢は慣れた手つきでスムーズに手続きを進めてくれた。
「では、こちらの登録用紙にご記入をお願いします」
差し出された羊皮紙の羊皮紙に目を落としながら、俺と隼人は同時に深々と息を吐き出した。
「……文字、勉強しといて本当に良かったな」
「……ああ、マジでな」
――この世界の文字の読み書きを勉強するよう提案してくれたのは、隼人の父親であるギルバートおじさんだった。
『いくら剣が強くなっても、文字が読めなきゃ依頼票も読めないし、情報収集もできないよ。僕が基礎から教えてあげる』
前世の記憶と学習ノウハウがあったおかげで、意味や読み方はすぐに理解できたが、文字の形があまりにも複雑で、満足に書けるようになるまではかなりの苦戦を強いられたのだった。
「お名前はどうされますか? 『ギル』様と『ガルフ』様、そのままで登録されますか?」
「うーん……あの、ギルドでは偽名って使えますか?」
「ええ、もちろんです。訳ありで本名を伏せたい冒険者様はたくさんいらっしゃいますから」
受付嬢の優しい微笑みに、俺は意を強くして頷いた。
「じゃあ、俺の登録名は“レオ”でお願いします」
「えっ、ある意味それ本名じゃん……! じゃあ、俺は“ハヤト”で!」
――もし、この広い世界のどこかで鈴や明里がこの名前を耳にしたら、俺たちの存在に気づいてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を込めて、俺たちはあえて前世の名を“残す”ことにしたのだ。
「承知いたしました。では最後に魔力測定に移ります。こちらの透明な水晶に手をかざしてください」
既に魔力測定の儀式は終えているため結果は目に見えているが、登録には必要不可欠らしい。
まずはハヤトからだ。彼が大きな手を置くと、水晶は眩い橙(オレンジ)色に輝いた。
「属性は『土』、魔力ランクは……C! 素晴らしいですね、このご年齢でCランクの魔力量をお持ちとは!」
ハヤトのしっぽがブンブンと音を立てて揺れる。嬉しさを全く隠せていない。
「続いて、レオ様どうぞ」
俺がそっと手をかざすと、水晶は淡く控えめな緑色にぽつりと光った。
「属性は『風』ですね。ランクは……Dです。あ、でも落ち込まないでくださいね! 新人冒険者のほとんどはDかEランクからのスタートですから!」
……なんだろう、すごく気を遣われて慰められている気がする。
少しだけ男としてのプライドが傷ついたが、暗殺や隠密を主軸とする立場から見れば、体内の魔力量が少ないというのは『敵から察知されにくい』という大きなアドバンテージになる……と、必死に自分へ言い聞かせて心を落ち着かせた。
「以上で登録完了となります! 初期ランクはEランクからのスタートですが、依頼を達成して実績を積めばランクはどんどん上がっていきますよ。お二人とも、頑張ってくださいね!」
ギルド証となる金属のプレートを受け取り、俺たちは顔を見合わせた。
――こうして俺たちは、“レオ”と“ハヤト”として、この広大な異世界へ本格的に足を踏み出したのだった。
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#異世界転移
花月夜れん
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コメント
1件
おお、第26話ついに冒険者登録か…!2人が本格的に異世界を動き出すスタートラインに立った感じがして、めっちゃ熱かったわ 特にガルフ(隼人)が大剣でゴリゴリ突っ込む脳筋スタイルなのに対して、ギル(怜央)が短剣で暗殺者向きってのがもう、性格と役割がハマりまくっててニヤニヤしちゃった。しかも魔力Dで「察知されにくい」って自己暗示かけてるところ、マジで暗殺者っぽくて笑った(いい意味で) 「レオ」「ハヤト」って前世の名前を残すところも、もし鈴や明里が聞いたら気づくかもってロマンがあって好きだわ。二人がこの先どう這い上がっていくか、ガチで続きが気になる🔥