その日は国中が歓喜の嵐に包まれた。噂によると我らが国王があの邪悪な森の魔女を戦地に送り、東西の国を奪還したと言う。
さらに、人々を怯えさせてきた森の魔女は南の国との戦いの最中で戦死した。
これ以上の吉報があるだろうか?
勇敢なる国王のおかげで、我々はまた一つ前進することができた。
その後も表現をこねくり回して何度も何度も同じ事を書き記している新聞。
続きを読まれることはなく、点々と滲んで読み辛くなったそれは瞬く間にビリビリと破り、千切られ、粉々になった。
「はーっ、はーっ…っ、殺してやるッ…!!」
「らっだぁ落ち着け!!」
怒りをそのままに玄関に向かおうとするらっだぁを羽交締めにしたはいいものの、理性の糸が切れているらっだぁの力は相当なもので、それなりに筋力がある俺でも止めることは出来ずにズルズルと引きずられた。
「ちょっ、助けろやレウクラァ!?」
「いや!無理でしょっ!?」
無理無理無理!と首を振りながらもどうにかならないかと四苦八苦しているレウだったが、らっだぁの手によって呆気なく飛ばされてしまう。
「い”っ…!」
「!!」
ゴンと鈍い音がしてレウが頭を抑えながら呻いた。
途端にピタリと固まったらっだぁがレウの呻き声でようやく理性を取り戻したのか、ハッとした顔でレウに駆け寄った。
「ご、めん…ごめんレウ。大丈夫?」
「あー…はは、うん。だいじょうぶ」
らっだぁとレウのケガの応急処置を施していると、こっそり城下町へ偵察に行っていたコンちゃんが帰ってきた。
「コンちゃん…どうやった……?」
「……ッ、あいつら、みっどぉの事……!!」
ボロボロと涙を流しながら崩れ落ちたコンちゃんは怒りをそのままに床を殴りつけた。
鈍い音がひとつ、ふたつと館に響く。
「何があったか、聞いてもええか……?」
「…みっどぉの、ボロボロのみっどぉの死体がっ…城下町中をっ引きずられてて……」
バキリと背後から音がした。
異様な殺気がヒシヒシと伝わって、気を失わないようにするので俺は必死だった。
「……は?」
普段のふわふわした声からは想像もできない重低音。
重く響く声が、この世の全てを咎めていた。
「…もう、よくない…?殺しても、よくない?なんでここまでされて俺達だけ我慢しないといけないの?」
「…らっだぁ」
「ねぇ、今すぐ行こうよ、一般市民も貴族も兵も王もみんな殺す。みんなみんな敵だ」
「らっだぁ!!」
静かに涙を流しながら怨みを吐き続ける姿は狂気とも言える。
でも、仕方ないことのように思えるのは身内贔屓とか言うヤツなのだろうか。
重すぎる感情を抑えつけて外に出さないようにしていたのに、まさかその想い人が殺されてしまうだなんて…おかしくなるのも必然じゃないのか?
「……扉を開けろ!」
突然、無遠慮に玄関扉が叩かれた。
力無く顔を上げた先にはたくさんの鎧。
「国王陛下が貴様らをお呼びだ」
すぐに来い、と顎で外を示している兵の視線を追って城の方を見ると、たくさんの紙吹雪と垂れ幕が城を囲むようにあって、無機質な城に彩りが添えられている。
青、赤、黄、紫…他にもたくさんの色があるのに、緑だけが見当たらない。
そんな事実に俺はさらに虚しい気持ちになった。
「今すぐ立て。無駄な抵抗はするなよ?」
四方を鎧に囲まれて、俺達は無言で城へと歩いた。
昔のあの頃と同じように鬱々とした空気で。
「ようやく来たか、顔を上げろ」
らっだぁが王の顔を見た途端暴れ出すんじゃないかと不安だったけど、本人は怖いくらいに大人しかった。
「国王陛下に、ご挨拶申し上げます」
「ハッ、怪物からの挨拶など要らぬ。青鬼だったか?あの魔女も耄碌したものだな。何千年と生きているからか、お前のような怪物の代わりになると言い出したのだよ」
「……そうですか」
「あぁ、そうだ。お前達を戦に出すと言った途端に歯切れも悪くなった。それまではニコニコと気味の悪い笑みを浮かべていたのになぁ」
目の前のゴミみたいなやつのためにどりみーが死んだのだと思うと怒りが湧いてくる…何も知らなかった自分への失望も。
「知っているか?魔女という生き物は百年に一度生まれるらしいぞ。探してみたらどうだ?」
「百年に…一度……」
「もっとも、お前達が百年も生き続けることができるかは分からないがな!」
王の高笑いが鼓膜を震わせる中、らっだぁはジッと床の一点を見つめて動かなかった。
ー ー ー ー ー
next?→100♡
コメント
2件
えやばいやばい、面白すぎる天才ですかね…😭💓