赤桃
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「インキュバスとサキュバスの相性はいいです!?」
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夜の校舎に、魔力のきらめきが満ちていた。
俺――りうらは、ちょっとばかし普通じゃない血統のせいで、陰で「インキュバスの子」なんて呼ばれることがある。いや、呼ばれているどころか、ほとんど全員思っている。
そして、その隣に立つのは――。
「ねぇ、りうら……あたしたち、今日こそちゃんと決めよ?」
赤みがかったピンクの髪を揺らしながら、ないちゃんがじっとこっちを見上げてくる。
彼女は彼女で、サキュバスの血が濃い。人を魅了するのなんて息をするより簡単で、先生ですら本気で困ってる。
そんな俺たちが、よりにもよって「恋人関係」だ。
――で、だ。
「だからさ……あたしらって、相性どうなの? みんな噂してるんだよ? “インキュバスとサキュバスはやばいらしい”とか」
「いや、どんな噂だよ。やばいってなんだよ」
「爆発する、とか」
「しねぇよ!!」
とんでもねぇ噂が流れてやがる。
……まあ、魔力が強すぎる二人が接近しすぎると周囲の魔力器具がぶっ壊れたりはする。実際、俺たちが初めて手を繋いだ時、保健室の魔力灯三つ一気に割れたし。
――でも爆発はしない。多分。
「りうらぁ、逃げてない?」
「逃げてねぇよ。ただ、相性って……何の相性だよ?」
「え、恋人としての、でしょ?」
「……お、おう」
いや、分かってたよ。分かってたんだよ?
でもないちゃんは、時々攻める方向が直球すぎて心臓に悪い。
「りうらってさ、“俺なんか”とか言うけど、あたしのこと好きでしょ?」
「好きだけど?」
「ほら〜素直〜可愛い〜」
「はいはい」
「ほんと可愛い……ほんと……」
と、ないちゃんがにじり寄ってくる。
その瞬間、廊下の魔力灯が「ピシッ」と音を立てて光をちらつかせる。
「あ、また魔力暴走してるよ?」
「お前が近いからだっつーの!!」
「えぇ〜? じゃあ離れよっか……?」
ススッ。
「いや、近づくなっつってんだろ!」
ないちゃんは俺の反応を面白がって、完全に獲物を見る目で笑ってる。
くそ、これぞサキュバスの悪魔的微笑み。
「りうらってさ、恋人らしいことしたいとかないわけ?」
「……そりゃ、まぁ、無いわけじゃないけど」
「でしょ? だから、確かめよ。あたしたちの相性」
「確かめるって、どうやってだよ?」
するとないちゃんは、俺の胸元に指をツイと引っ掛けて言った。
「――キス」
その一言で、魔力灯が一斉に「バチッ!!」と火花を散らした。
「お前なぁああ!! 校舎でやる話じゃねぇだろ!」
「だって誰もいないよ?」
「いや、だからって!」
「りうら、もしかして照れてる?」
「照れてねぇし」
「照れてる〜〜」
「照れてねぇ!!」
完全に手玉に取られているのは分かる。
でもないちゃんは、俺がちょっとでも照れると本気で嬉しそうに笑うから、その顔を見るために照れさせられてる気もしてくる。
「でね? あたし、今日こそりうらと――」
「その“今日こそ”ってなんだよ!!」
「あれ? 分かってたのに?」
「……わざと言ってるだろ」
「うん」
「あっさり認めんな!」
ないちゃんは俺の腕を軽く掴み、くいっと引いた。
そのまま俺の胸に額を押し当ててくる。
「ねぇ、りうら。あたしたちってさ……普通のカップルより、ずっと、距離むずかしいじゃん?」
「まあな。魔力的に」
「でも、あたしはね……りうらともっと近づきたいんだよ?」
不意打ちで心臓が跳ねる。
ないちゃんは強く見えるけど、こういう時だけ少し弱い声になる。
それが、俺にとっては一番ズルい。
「……俺も」
「じゃあさ、今日こそ」
顔を上げる。
ないちゃんの瞳は、甘くて、でも真剣で。
「キス、しよ?」
――次の瞬間。
校舎の窓ガラス全部が一斉にビリビリと震えた。
魔力が跳ね上がっているのが分かる。
このままじゃ本気でまずい。
「お、おい待て! いったん、魔力制御してからにしようぜ?」
「いやだ」
「なんでだよ!」
「だって、我慢できないもん」
「子どもかお前は!!」
「え〜りうらが好きなんだからしょうがないよねぇ?」
「甘えんな!」
そう言った瞬間、ないちゃんがぷくっと頬を膨らませた。
「りうらの意地悪……!」
「はぁ……分かった、分かったから拗ねんな」
「じゃあ、する?」
「……ちょっとだけな? な??」
「うん♡」
その一言で、俺の魔力は爆発寸前になる。
ないちゃんの方も、同じくらい高まっているのが分かる。
「じゃあ、目閉じて」
「お前が閉じろよ」
「え〜、レディに目閉じさせるの?」
「今レディって柄じゃねぇだろ!」
「ひどーい!」
言いながらも、ないちゃんは目を閉じる。
その顔があまりにも可愛くて、俺は観念した。
「……行くぞ?」
「うん……」
軽く触れるだけの、ほんの一瞬のキス。
触れた瞬間――。
バチィィィィィン!!!
廊下の魔力灯がすべて弾け飛んだ。
「ほら!! だから言ったじゃん!!」
「……ふふっ、でも、りうらの唇、あったかかった」
「お前な……!!」
破壊された魔力灯の下で、俺は頭を抱える。
でも、ないちゃんは幸せそうに笑っていた。
「ねぇ、りうら」
「なんだよ」
「あたしたちの相性――最高だよ?」
「……はいはい」
「ほんとだよ? ね? もっとする?」
「しねぇ!! 今日のところは勘弁してくれ!!」
「え〜〜!!」
その後、俺たち二人は職員室に魔力灯の弁償説明をしに行く羽目になり、
先生たちには「距離を取りなさい!!」と説教された。
――でも。
(……相性、最高かもな)
内緒でそう思っていることは、ないちゃんにはまだ言わない。
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END
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