誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第54話 〚先生の視線に気づいてしまう回〛
――澪視点――
バスのエンジン音は、
ずっと一定なのに。
胸の中だけ、
落ち着かない。
(……変だな)
窓の外を見ているはずなのに、
景色が頭に入ってこない。
えまが隣で、
スマホの話をしている。
「ねえ澪、着いたらさ——」
「……うん」
返事はできる。
笑顔も作れる。
でも。
(なんで、こんなに息が浅いんだろう)
ぎゅっと、
胸の奥が縮む。
“予知”は、
何も見せてこない。
心臓も、
静かなまま。
(何もない、はずなのに)
その時だった。
前の席の隙間から、
“視線”を感じた。
(……先生?)
一瞬だけ、
目が合った。
担任の目は、
怒っていない。
疑ってもいない。
ただ——
考えている目。
(……あ)
その瞬間、
澪は分かってしまった。
(先生、
この空気に気づいてる)
理由は分からない。
原因も分からない。
でも、
「何かおかしい」という
同じ場所を見ている。
(私だけじゃ、ない)
その事実が、
少しだけ——
怖かった。
(大人に気づかれるって、
こんな感じなんだ)
守られる、
というより。
“判断される前”の視線。
澪は、
無意識に肩をすくめた。
その動きに、
すぐ反応した人がいる。
海翔。
こちらを見て、
小さく眉を寄せる。
(……気づいた)
澪は、
首を横に振った。
「大丈夫」
声に出さず、
口だけで伝える。
海翔は、
少しだけ迷ってから、
前を向いた。
(ありがとう)
そう思うと同時に、
胸がきゅっとする。
(私、
守られてる)
でも今日は、
それだけじゃない。
先生の視線が、
まだ残っている。
(見られてるのは、
私?)
それとも——
私の周り?
澪は、
そっと背もたれに身を預けた。
(……心臓)
何も、
見せてくれない。
予知も、
警告も、
拒否も。
ただ、
静かに脈打っている。
(黙ってるってことは、
“選ばせる”ってこと?)
そう考えた瞬間、
少しだけ息が楽になった。
(大丈夫)
(私は、
今ここにいる)
先生の視線も。
海翔の気配も。
全部、感じている。
それなら。
(逃げない)
澪は、
もう一度だけ前を見た。
担任は、
もうこちらを見ていなかった。
でも。
(……見守られてる)
そう感じたまま、
バスは
次の休憩所へ向かって走り続けた。






