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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第55話 〚真壁恒一視点〛
バスの中は、
思っていたより静かだった。
(修学旅行って、
もっと騒ぐもんじゃね?)
真壁恒一は、
前の席の隙間から、
何度か前方を見る。
澪の姿が、
ちらっと見える。
(……やっぱ、可愛い)
そう思った瞬間、
視線を感じた。
(……ん?)
先生だ。
担任が、
一瞬だけこちらを見て、
すぐに視線を外した。
(……何だ?)
恒一は、
少しだけ背筋を伸ばす。
(俺、なんかした?)
でも、
すぐに別の考えが浮かぶ。
(いや、違うな)
(修学旅行だし、
問題起こしそうなやつ
チェックしてるだけだろ)
そう自分に言い聞かせながら、
もう一度前を見る。
澪の近くには、
海翔がいる。
……近い。
(……守ってる、つもりかよ)
胸の奥が、
少しだけざわついた。
でも、
その感情を
恒一は別の言葉にすり替える。
(先生が見てたのは、
俺じゃなくて——)
(あの二人、だ)
(同じ班で、
同じ部屋で、
距離近すぎだろ)
(そりゃ、
先生も気になるわ)
そう思った途端、
妙に納得してしまった。
(だよな)
(俺は、
何も悪くない)
むしろ。
(気を使って、
空気読んで、
距離取ってる側だろ)
誰も話しかけてこないのも、
自分が嫌われているからじゃない。
(みんな、
緊張してるだけ)
(修学旅行の朝だし)
都合のいい理由が、
頭の中に
次々と並んでいく。
(……澪)
もう一度、
前方を見る。
澪は、
少し背もたれに寄りかかって、
静かに座っている。
(……疲れてる?)
(だったら、
俺が話しかけた方がいいよな)
(同じ班なんだし)
そう考えた瞬間、
胸の奥が
“期待”で膨らむ。
(俺、
ちゃんと受け入れられてる)
(先生も、
その前提で見てる)
——だから、
視線を向けた。
——確認、
だったんだ。
恒一は、
そう結論づけた。
自分が
「警戒されている」
可能性だけは、
最初から
選択肢に入れなかった。
(……よし)
(着いたら、
自然に話しかけよ)
(澪も、
きっと普通に話してくれる)
そう思いながら、
恒一は前を向いた。
気づかないまま。
——その“勘違い”が、
——この先で、
——決定的なズレになることを。
バスは、
何も知らないまま、
目的地へ向かって走り続けていた。