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土曜日。私は今、如月くんの家にいる。
なぜいるかというと、お互いがアニメ好きと分かって、如月くんに一緒にアニメを見ないかと誘われたからだ。
「何系のやつみたい?」
「うーん…平和なのがいいな!」
「じゃあ、これとかどう?」
そうして、2人でアニメを見始める。
見ているアニメは感動系のアニメ映画で、主人公の少女が夏の終わりに森で不思議な少年と出会い、ひと夏の間だけ一緒に過ごすという物語だった。少年は常にどこか儚げで、少女は彼のことをもっと知りたいと思いながらも、その正体に触れることをためらっていた。そして、季節が冬へと移り変わる頃、少年は「もう行かなくちゃ」と言い残し、少女の目の前で静かに消えてしまう。——まるで最初から存在しなかったかのように。
「うぅ…」
「帆乃さん、泣きすぎ」
如月くんは呆れたように小さくため息をつきながらも、どこか優しげな目でこちらを見ていた。からかうというより、まるで泣きすぎた私を気遣っているようだった。
「如月くんは泣かないの?」
「うるっとはくるけど、俺は描写やストーリーの構成とかを見て楽しんでるから」
そう言う如月くんはコーヒーを片手に平然としている。
けれど、その瞳はスクリーンの端に残るエンドロールをじっと見つめたままだった。彼の表情には感情の揺らぎは見えない。でも、もしかしたら、胸の奥では何かを感じているのかもしれない。
「そう言えば、如月くん、絵描くの好きだって言ってたよね?」
アニメの映像に目を向けながら、私はふと思い出した。彼の描く世界はどんなものなんだろう。気になって聞いてみると、如月くんは少し驚いたように瞬きをした。
「うん」
「見せてよ!」
「…恥ずかしいから、あまり人には見せたことないんだけど」
そう言いながら、彼は自分の部屋に戻ってスケッチブックを取りに行った。
「はい」
渡されたスケッチブックを開いてみると中には、繊細なタッチで描かれた風景画や、アニメキャラの模写。色の使い方が絶妙で、光と影の表現がまるで本物のように感じられる。
才能とはこのこと。
こんなの私には描けない…。
私が描く絵とは別世界のように思えて、言葉を失った。息を呑み、ただページをめくる指先に力が入る。
如月くんは視線を伏せ、少し頬を赤らめながら指先でスケッチブックの端を撫でた。
「ど、どうかな…?」
声はかすかに震えていて、緊張しているのが伝わる。彼にとって、この絵はただの趣味ではなく、自分の一部なのかもしれない。
その思いが伝わってきたからこそ、私の胸は熱くなった。
これ、本当にすごいよ…
そう言おうとしたけれど、言葉が見つからず、気づけば口から出たのは——
「天才ですか?」
思わず言ってしまった。
「いやいや、ただ絵が好きで描いてるだけだよ」
如月くんはスケッチブックを指先でなぞるように撫でながら、小さく笑った。
「俺さ、絵で人の心を動かしたい」
彼の声はどこか遠くを見つめるような響きを帯びていた。
「小さい頃、お父さんがよく絵本を読んでくれたんだ。絵の世界に入り込むのが楽しくて、気づいたら自分でも描くようになってた。でも、いつの間にか独りで描くことが増えて…それでも、絵を描いてると落ち着くし、自分の気持ちを表現できる気がする」
彼の言葉に、私はそっと頷いた。
「すごく素敵な夢だね。応援するよ!」