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「……退学しようと思ってる」
ある日、突然発せられた言葉に私は思わず目を見開いた。
「え……?」
彼は苦笑しながら、視線を落とす。
「いや、久しぶりにお母さんと通話した時に言われたんだ。冷たい声で『学校に行かないなら、もう学費は出しません』って。まるで、俺の未来なんてもう関係ないって言われたみたいだった」
静かな部屋の中で、その言葉だけが重く響いた。
「そっか…」
私はただ、頷くしかなかった。
「だから、このこと先生に伝えてくれないかな?」
「もちろんいいけど…如月くんは本当にそれでいいの?」
念の為聞いてみた。
如月くんは少し間を置いて答える。
「…本当は自分がどうしたいのか分からないんだ」
彼の目は深い海のように暗かった。
「みんなみたいに普通に登校したい気持ちもあるけど、それよりも周りに迷惑かけてる自分が嫌になる」
不安げな声が、静かな部屋に響く。
「分かった。先生にはこのこと伝えておくけど、ちゃんと自分と相談してね」
月曜日の朝。すぐに、先生のところに行き話た。
「…てことを如月くんが言っていて」
「まずは、伝言ありがとね。そうね、確かに彼の気持ちは分かるわ。ただね…」
そう言って先生は、目を伏せた。
「彼には出来るだけ卒業してほしくないのよ」
「それはなんで…?」
先生は少し息を整え、ゆっくりと口を開いた。
「彼が絵を描くのが得意なのは知ってるのよね? 実際、業界の人からも声がかかっているの。でも、彼がこの学校を卒業することには大きな意味があるのよ」
「大きな意味…?」
「この学校は“多様な才能を尊重する”という方針を掲げているわ。彼が卒業することで、次に入学してくる子達に自分の道を見つけられるという証明になるの。だからね、できるだけこの学校を卒業してほしいと思ってるの」
先生の言葉には確かに理屈があった。でも、如月くん自身の気持ちはどこにあるのだろう。
私は愕然とした。
「な…!」
「あなたにこんなことお願いするのは心苦しいけど…彼に、退学しないようお願いしてほしいの」
なんだか、如月くんの気持ちが否定された感じだった。
彼の思いよりも学校の方針が優先されるような言葉に、胸の奥がざわついた。まるで、彼の人生を学校の『成功例』として扱おうとしているように感じてしまう。
どこからか、ふつふつと怒りが湧いてくる気がした。
これだから学校は…好きになれない場所。
私は居た堪れなくなり、適当に返事をして席についた。
この日は先生に言われたことが、ずっと頭に残っていて授業に集中出来なかった。