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#魔王
青空美空
8
ruruha
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298
於田縫紀
1,848
◆
朝。
教室には生徒同士の笑い声が響いていた。
「……。」
ソフィアは静かに教室へ入り、自分の席へ向かう。
「…おはよう。」
小さく挨拶をする。
しかし。
「……。」
返事はなかった。
教室の空気だけが静かに流れていく。
ソフィアは何事もなかったように椅子へ座った。
「ソフィア〜!おはよ!」
聞き慣れた明るい声。
ソフィアの表情が少しだけ柔らかくなる。
「…あっ、おはよ……。」
「……? どうしたの?」
「元気ないじゃん。」
「んーん。」
ソフィアは笑って首を振る。
「なんでもない。」
◇
授業開始のチャイム。
ソフィアは机の中を探す。
「……。」
教科書がない。
隣を見る。
「ねぇ、ごめん……。」
「教科書貸してくれない?」
「あぁ、うん!」
「全然貸すよ!」
友人は笑顔で教科書を半分こちらへ寄せた。
「……はい。」
「ありがと。」
ソフィアはほっと息をつく。
「ソフィアったらまた忘れたの?」
「……うん。」
「最近忘れっぽくて。」
そう笑ってみせる。
◇
休み時間。
廊下を歩いていると、小さな声が耳へ入る。
「……え。」
「うわ、最悪。」
「ね、気味悪いんだけど。」
「行こ。」
数人の生徒が目を逸らし、そのまま通り過ぎていく。
ソフィアは立ち止まったまま動けない。
「………。」
何も言い返さない。
言い返せない。
そんなことをしても、もっと悪くなるだけだから。
◇
放課後。
「ねぇねぇ!」
「明日、猛暑日だって!」
友人は楽しそうに笑う。
「ただでさえ暑いのにぃ〜!」
「えぇ?」
ソフィアも少しだけ笑った。
「そうなんだ。」
「うん〜…。」
「ねぇ、アイス買って帰ろー?」
「……うん。」
「もちろん、 いいよ。」
その時間だけは。
◇
夕方。
「……ただいま。」
玄関を開ける。
しかし返ってきたのは。
「いい加減にしてよ!」
母親の怒鳴り声だった。
「ねえ…… なんでいつもいつも…!」
「私が一日中どれだけ動いてると思ってるわけ!?」
父親も声を荒らげる。
「またその話かよ…。 後でやるって言ってんだろ!」
「後でっていつよ!」
「いつもそう言ってやらないじゃない!」
食器がぶつかる音。
怒鳴り声。
ため息。
そのどれもが聞き慣れていた。
ソフィアは何も言わず、ドアノブに手をかけ。
「……。」
誰にも気付かれないように。
静かに玄関の扉を閉めた。
◇
夜。
人気のない公園。
街灯だけが静かに道を照らしている。
「……。」
ソフィアはベンチへ座り、空を見上げる。
「飲み物くらい持ってくれば良かったな……。」
そんな独り言を呟いたとき。
「……君。」
「ちょっといいかな?」
警察官が声を掛けてきた。
「……はい。」
「警察だけど… こんな時間にどうしたの?」
「携帯も荷物も持ってないみたいだけど。」
「散歩です。」
短く答える。
警察官は困ったように笑う。
「そうかい。」
「でもね、十八歳未満の人が夜に……。」
「……。」
ソフィアは小さく息を吐いた。
「…わかってるから。」
「……そのやり取り。」
目を伏せる。
(もう、うんざり。)
◇
帰宅後。
「ねぇ…夜中に警察から電話がかかってきて…。」
母親の怒声が飛ぶ。
「私がどんなに恥ずかしい思いをしたか分かってるの…!?」
ソフィアは何も答えない。
「夫婦喧嘩なんてどこの家でもあることでしょ…?」
「なんでそれが分からないの!?」
「……。」
「これで三回目じゃないの……!」
「ねぇ…あなたも何か言ってよ!」
「はぁ…。」
「じゃないとまた……!」
母親の声は続く。
ソフィアはただ床だけを見つめていた。
◇
翌朝。
「ソフィア〜!」
「おはよっ!」
「……おはよ。」
「…朝から元気だね。」
「え?」
「いつもこんな感じじゃない?」
友人は笑う。
「…そっか。」
「てか、まじ暑ーい…!」
その声を遮るように。
「……でさ。」
教室の奥から話し声が聞こえる。
「昨日見ちゃったんだよね…。」
「あいつが警察に補導されてるところ。」
「え、マジ?」
「……。」
ソフィアは動きを止めた。
「やっば〜!」
「え、写真は?」
「撮れたら撮りたかったけどね〜。」
友人もその話を聞き、表情が曇る。
「……ソフィア…。」
「大丈夫……?」
「あ、 うん。」
「……ねぇ、ソフィア……。」
友人は何かを言いかける。
「その……。」
「……何?」
「……あ、違、う…よね。」
「… ごめん。」
「なんで謝るの。」
「……、 ううん。」
「……ごめん。」
その言葉だけが残った。
◇
放課後。
「ソフィアー!」
友人が声を掛ける。
「今日さ……。」
その瞬間だった。
「んでさー……。」
「……あ。」
向こうから歩いてきたいつもの生徒が、
突然ぶつかってくる。
いつも通り、だった。少し場所が違えば。
「……っ、え。」
友人が反射的にソフィアを突き飛ばした。
「ソフィア!」
ほんの数秒後、鈍い衝突音。
一瞬、時間が止まる。
「……?」
ソフィアは何が起きたのか理解できなかった。
階段の下では、
友人が倒れていた。
「……え。」
「やっば……。」
「いや……私は何もしてないし……。」
誰かの震えた声。
普段なら嫌ほど聞きなれた声のはずだが。
「ちょっと何してんの…!?」
「早く先生呼んで!」
廊下は一瞬で騒然となった。
ソフィアだけが、
その場で動けずに立ち尽くしていた。
◇
白い病室。
規則正しく鳴る機械音。
ベッドで眠り続ける友人。
その姿を見つめながら、
震える声で呟いた。
「……ごめ…ん。」
◆
コメント
1件
うわ……第19話、胸がぎゅってなった。 ソフィアが家でも学校でも居場所なくて、それでも友達といる時間だけが救いだったのに、まさかあの展開になるなんて。 最後の「ごめ…ん」がすごく重くて、言葉にならない苦しさが伝わってきたよ。 次の話、気になるけど読みたくない気持ちもあって複雑だよ……。 白夜 ゑぬ。さん、こういう静かな苦しさを無理なく描けるの、本当にすごいと思います。