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随分と寂れた町だ。歩いているとそう思うようになってくる。ここは明らかに自然に侵食されていた。どこを見渡しても山か古民家。取り壊されもされなかった廃墟が点々とあって、商店街のシャッターには既に錆が入っていた。
暑い、というよりも熱いと言うべきな日差しに照らされながら、この人と私、縦に並んで歩いている。
前を行くフランスの背中は、一体何を考えているのか分からなかった。痛々しい痣が半袖から見え隠れしている癖に、そこから悲しさすらも汲み取れない。
まあいいか、と目を逸らす。地面に落ちる影は青く濃い色をしていた。
随分と歩いた後、ふと駄菓子屋が目に入った。よく言えば昔ながらの、悪く言えば古ぼけたその外観は、フランスの目にも止まったらしい。
何か食べない?さっきからずっと暑くてさ、とそこに指を指して投げかけてくる。断る理由もないので2人揃って店内に入ってみた。当然客は1人も居なかったし、平日の午前中に制服姿で来る男子学生2人組に店主は触れてこなかった。
少し悩んだ末、冷凍ショーケースに入っているアイスを買うことにした。自分はソーダ味、フランスはオレンジ味を選んだようだ。
外のベンチに座って、空を見上げる。屋根のお陰で眩しくはないが、だいぶ日が昇ってきた。
棒アイスを何口かかじった辺りでフランスが口を開いた。
「あのさ、ちょっと聞きづらくて今まで聞けなかったんだけど、イギリスはなんで僕に着いてきたの?」
「、、、なんで、、、ですか、」
「僕一応どっかで死ぬつもりだけど、着いてくるってことはそういうこと?」
「、、、まあ私も近頃死のうかなー、と思ってたので、」
「そんなノリなんだ、、、」
「そんな感じなんです」
「この際だから全然聞いちゃうけど、なんで死にたいの?」
「、、、あー、ちょっと、親が、、、」
「、、、もしかして触れない方が良かった?」
「あ、いえ。そういう訳では、ただ少し教育熱心で、私が勉強出来ないと参考書の角で頭殴ってくるんですよ」
「それ教育熱心っていうの?暴力じゃん」
「笑えますよね」
「笑っていいことじゃないけどちょっと笑える」
と、二人で少し肩を震わせる。思っていたよりも会話の波長は合うみたいだ。
「、、、その親に、子は親の為に生きるものだって言われて、あー、なんか、この人の為に生きるのだけは嫌だなって思ったんです」
「うわー、大変だねー、」
「体中に痣がある貴方には言われたく無いですよ」
「あはは、確かにそうかも。、、、じゃあさ、結局僕らは誰かに愛されたことなんて、無かったんだね」
「嫌な共通点ですね」
「ふふ、まあでも、今の話聞いてなんかちょっと安心したかも。イギリスのこと全然わかんなかったし。なんか仲良くなれそう」
そういう彼は、目を細めて笑う。こっちのセリフだと思った時、目の前に手を差し伸べられた。
「じゃ、これからよろしく。」
「、、、よろしく、お願いします」
その手を握り返した時、ふいにあの雨の日を思い出した。この人が部屋の前で泣いていた時の微かな震えは、とうに無くなっていた。
思っていたよりも暖かい肌が、自分にとっては少し心地よかった。
こんなに無邪気な人が、こんなに笑える人が、なぜ人を殺す必要があるのだろう。
まだ信じていなかった。信じたくなかった。握った手が、アイスの棒を捨てた手が、一瞬だけでも殺意を持ったことを。
目を奪われたかのように見ていると、どうしたの?と聞いてくる。そして、何でもないです、と返す。
心のどこかで、この人に死んで欲しくないと思う自分がいた。
(だから、)
貴方は何も悪くない、貴方は何も悪くないよ、と言い聞かせるように心の内で呟いた。