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住宅街に入った。とは言っても、地形に沿って明かりがついてない家屋が並んでいるだけだ。狭い階段を上ったり、流れる水路を跨いだり、飛び立つ鳩を追いかけたり、随分と子供くさい冒険をした。フランスとは、朝よりもよく話すようになった。くだらない話をするのが楽しかった。雨に濡れた作り笑いではなく、光で満ちた笑顔の方が、この人には似合っていると思った。
ふと、あの玄関先での言葉を思い出した。
『、、、何でだろうね。まあ、他に仲良い人いないし。』
そういえば、自分も友達と呼べる友達がいなかったな、昔から。
だから、この人がこんなにも眩しく見えるのか。そう思うことにした。
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いよいよ、山が目の前に来てしまった。少し曇ってきたからか、生暖かい空気が身を纏う。
行く先は決まっていないはずだが、フランスは怖気付く気配もなく深緑へと入っていく。
「、、、そういえば、どんな所で死ぬつもりなんですか?」
「え?あぁ、そうだなー。
んー、誰もいない場所?出来れば綺麗な所がいいなあ」
なんて、呑気に伸びきった声で答える。会話の内容と合致しないこの声は、目を離したらどこかに行ってしまいそうで怖かった。
さく、さく、と地面を踏む。一応人が歩ける道にはなっているものの、整備のせの字も無いほど放置されていた。制服のズボンにひっつき虫が付く。揺れる葉の隙間から、眩しい曇り空が覗いていた。
薄暗くじめっとした空気とは対照的に、目の前の人物は軽い足取りで奥へと進んでいく。そうして、たまに置いていかれそうになりながら坂道を登っていく。
そういえば、と前に学校で行ったハイキングのことを思い出した。その時もクラスメイト達がへばっている中、フランスはずっと涼しい顔をしていたな。
「、、、今頃クラスの人達は何してるんでしょうね」
「えっと、今日の予定って、、、確か保体あったよね。僕あの先生嫌いだからサボれてラッキーかも」
「サボるどころか一生受けなくても良いんですよ」
「わあうれしー。、、、ああでもそっか。〇〇死んだから今あっちは大変なことになってんのか、」
まるで他人事のように彼は笑う。
「まあ今となっちゃどうでもいいか!僕たちはどうせあぶれ者なんだし!」
その笑顔が、あの雨の日の笑顔に重なった。ああ、まただ。心の奥から知らない感情が顔を見せてくるのは。それは決して嬉しいものでも、輝いているものでも無い。今踏んでいる土のような、空に塗られた色のような、得体の知れない不快感だけが頭を蝕んでいる。
振り払うように歩くスピードを早めた。
少し明るい場所があると思ったら、道路に突き当たったようだ。毎度の如く、端を囲うガードレールは錆びていたし、カーブミラーは意味を成さないほど草が絡んでいた。
左右を見渡すと向こうの方に立ち入り禁止のバリケードが設置されている。どうやらここは車が通らないようだ。
「一旦ここで休憩しませんか?足が疲れちゃって」
「そうだね。僕昼飯アイスのみは流石にキツイわ」
そうして、アスファルトに座り込み、完全栄養食の封を開ける。
「、、、私これあんまり好きじゃないんですよね」
「そうなの?そんな変な味かなぁ?」
「いや、味というよりかは、普段夜勉強する時に夜食として食べているので、気分的に良くないというか」
「あーそういうあれね。でもイギリス夜も勉強すんの偉いよなー。学校でも真面目だし。僕なんか問題集放置しすぎてどっか行っちゃったよ」
「それはそれで問題がありそうですが、、、
でも真面目ってものもそんなに良くないですよ。変な期待かけられるし、イメージ押し付けられるし」
「イメージ?」
「大抵は親からですけどね。私の事、素直で優しくてお勉強がだーっい好きな子だと思ってるんですよ。そのせいで、小さい頃から娯楽を一切与えてくれなくて。
、、、漫画、1度でも良いから読んでみたかった」
「、、、そっか、」
「、、、ねえフランス。いつか夢にまで見た、優しくて、誰にも好かれるような主人公なら、こんな私たちのこともちゃんと救ってくれたのでしょうか?」
「、、、そんな夢ならもう捨てたよ。だってさ、現実を見てみろよ。幸せの4文字なんかありやしない。今までの人生で散々思い知ったじゃんか」
「、、、やっぱそうですよね」
寂しい気持ちを体現するかのように俯いていると、隣で何かチャックを開ける音がした。
見れば、フランスがカバンからゲーム機を取り出している。
「、、、ネット繋がらないと思うけど、やろうよ。一緒に。
僕はね、この旅だけは幸せでありたいんだ」
そういって彼は、顔を綻ばせる。
本当にずるい人だと思った。それだけでなぜか救われたような気持ちになったから。
日が沈み、辺りが暗くなった頃、山奥でひっそりとブルーライトの光が灯った。