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専業プウタ
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昼下がりのDream Gateは、レッスンの時間帯らしい活気に包まれていた。 廊下を行き交うスタッフ。壁際に置かれた段ボール箱。どこかのスタジオから漏れてくる音楽。電話の呼び出し音に混じって、若いタレントたちの笑い声も聞こえる。
その喧騒から少し離れた応接スペースで、星凪美夏(ほしなぎみか)は天導隆一(てんどうりゅういち)と向かい合っていた。
「次の歌番組の話なのですが……」
テーブルの上の紙コップに視線を落としながら、美夏は慎重に切り出した。
「映画の宣伝も、少し入れられますよね?」
「まあ、番組の構成次第だね」
天導は穏やかに答えた。
映画『君が消えた世界はまだ続いている』の主演は、美夏と人気アイドルの月城律(つきしろりつ)。美夏は無名の新人だが、原作者直々の指名という話題性がある。歌番組サイドにとっても、視聴率の材料としては悪くないはずだった。
「だったら……」
美夏は少しだけ間を置いた。
「寿志(ずし)監督にも来ていただくのは、どうでしょうか?」
天導の表情が、ほんの僅かに変わった。
「寿志さんを?」
「はい。私と月城さんだけで映画の話をするよりも、宣伝効果があると思うんです。監督に来ていただいたほうが、作品のことを話しやすくなると思いますし」
美夏は微笑みながら天導に答えた。
あくまで自然に、新人らしい素直な提案に聞こえるように。
「それに、私……こんな大きな仕事は初めてなので……」
少し困ったように笑う。『新人女優』という設定の役を演じるように。
「作品について監督からお話ししていただけたら、番組を見ている方にも興味を持ってもらえるかなって」
「なるほど」
天導は顎に手を添えた。
美夏はその様子を観察した。
断られる可能性も考えていたが、天導は穏やかに微笑んだ。
「寿志さんのスケジュール次第だね」
「そうですよね……。もし可能なら、天導さんの方からお願いしていただけませんか?」
「分かった。先方に話しておこう」
「ありがとうございます」
美夏は頭を下げた。そうして自分の表情が隠れていることを意識しながら、頭の片隅では別のことを考えていた。
──これでいい。
もしもうまく行かなくても、焦る必要はない。
寿志清純(ずしきよすみ)を、本物の重鎮のいる表舞台に引っ張り出す。
それが、最初の作戦だった。
寿志は芸能界で強大な力を持っている。しかしメディアに映る彼は、Studio Asterのライターの書いた台本通りの発言をしているに過ぎない。小学校に入る前から父の8mmカメラで無声動画を撮影していたというエピソード。十代の頃から自主制作映画を撮っていたというエピソード。どれもこれもStudio Asterのライターの創作だった。カメラの前で予定調和を演じるだけの、作られた天才──それが映画監督・寿志清純の実像だ。だからその力を崩すならば、Studio Asterの台本の力が完全には及ばない生放送で、本物の重鎮と対峙させる必要がある。
もちろん、一度の出演でボロを出すとは限らない。
Studio Aster側が出演を断る可能性もある。
しかし作戦としては、この方向で間違いない。怒らせてはいけない芸能人は、寿志清純だけではないのだ。そして美夏はそのうちの数名をすでに把握している。月城智明(つきしろともあき)の遺稿に記されていたからだ。一人で勝てない化け物には、それ以上の力を持つ怪物をぶつければいい。切れるカードはいくらでもある。美夏は笑顔を崩さなかった。
「映画、楽しみですね」
「ああ。君にとっても大きな仕事になる」
「はい。頑張ります」
天導は満足そうに笑い、美夏は素直な声で答えた。
そのとき、ふと、廊下の向こうに人影が見えた。
朝霧舞白(あさぎりましろ)だった。
舞白は壁際に立ち、美夏のほうを見ている。美夏は軽く微笑んだ。しかし舞白は、なぜかすぐに視線を逸らした。
(あれ……?)
美夏は怪訝に思う。
最近、舞白の様子が少し変だった。回帰前とは異なる反応を見せることが増えた。冷静そのものだったはずの場面で、内心の動揺を表に出すことがある。かと思えば、以前なら自然に笑っていた場面で、不意に黙り込むこともある。美夏には、その理由が分からない。ただ、回帰前のあの日、廃遊園地で天導に見せられた舞白と律の写真が脳裏に浮かぶのみ。
何かがおかしいという感覚がある。しかしそれが何なのか、美夏には皆目見当がつかない。初ライブで前に出なかった影響なのだろうか。でも、どんな因果があって、このような変化が生まれたのだろう──
答えの出ない疑問に首を傾げる美夏の前で、天導が腕時計を確認した。
「……さて、そろそろ行かないとな」
「どこかに行かれるんですか?」
「ああ。今日は柊木(ひいらぎ)君を迎えに行く約束をしていてね」
「柊木さん……?」
初めて耳にする名前だった。
天導は穏やかな笑顔で美夏の疑問に答える。
「君のアクション指導をお願いする人だよ」
「ああ……そうでしたね」
「夕方までには戻る予定だ。何かあれば事務所のスタッフに言ってくれればいい」
「分かりました」
天導は席を立った。
美夏も立ち上がり、軽く頭を下げる。
「お気をつけて」
「ああ」
天導が応接スペースを後にする。美夏はその背を目で追った。
柊木。天導が自分のために紹介してくれた、アクション指導者。名前を聞いたことはない。正確には、廃遊園地のバックヤードに監禁されているときに、柊木、と呼ばれていた者はいなかった。
では、失敗したのだろうか。天導と繋がりのある反社と接点を持つことに。
(……ううん。まだ失敗したとは限らない)
美夏は知っている。天導は所属タレントを『商品』としか見ていない。そして柊木はおそらく、天導が『商品の制作コスト』を削減できると判断して選んだ人物だ。だから、必ず、何かがある。美夏は静かに息を吐いた。
コメント
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おお、第12話読んだよ!美夏が寿志監督を生放送の表舞台に引きずり出す作戦、めっちゃ頭いいなと思った。一人で勝てない相手にはもっと強い怪物をぶつけるって発想が、回帰前の記憶を活かした美夏らしいしたたかさで刺さるわ。舞白の様子が変わってきてるのも気になるし、ラストの「柊木」って名前も含めて伏線がじわじわ効いてて続きが気になる展開だね🔥