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死ネタ注意
星導が死ぬ描写有
VTA関連出てきます
👻🔪×🐙🌟(恋人)
わ
ん
く
っ
し
ょ
ん
夜の街に、淡い光が滲んでいた。
カフェの窓際、星導ショウは両手で包んだマグカップを見つめていた。
向かいの席では、小柳ロウがスマホを弄りながら、ふと視線を上げる。
「なに見てんの、星導」
「……いや、今日、誕生日でしょう。俺、ちょっと渡したいものがあって」
星導はそう言って、小さな封筒を取り出した。
薄い金色の紙。中を覗くと、何枚かのカードが手書きで入っていた。
『アイス1個奢る券』『1日王様券』
そして、一番下に一枚だけ――
銀色のペンで書かれた札があった。
『なんでもお願い叶えちゃう券』
「なにこれ、手づくり?」
「はい。手づくりです」
「可愛いな〜、おまえ」
「小柳くんが喜んでくれたら、それでいいんです」
ロウは笑ってそのカードをひらひらと掲げる。
「なんでも叶うの?ほんとに?」
「……はい。どんなお願いでも」
「じゃあ今は、“このあともずっと一緒にいる”で」
その言葉に、星導の頬がかすかに赤くなる。
「……それは、俺の方がお願いしたいくらいですよ」
笑い合ったその夜、二人は並んで街を歩いた。
冬の風が冷たくて、けれど指先は温かかった。
月日が流れた。
ヒーロー活動での出動が増え、二人の時間は少しずつすれ違い始めていた。
それでも、帰る場所はいつも同じ。
互いの声を確かめ合うだけで、生きていけた。
けれど、その日。
通信越しに聞こえた“爆発音”と“ノイズ”が、すべてを変えた。
「星導!! 応答しろ!!」
焦げた空気、散ったガラス片。
駆けつけたロウの前に、崩れた瓦礫の下で星導が横たわっていた。
「なあ、やめろよ……立てよ……!」
血に染まった手を掴んでも、星導はもう、笑っていた。
「小柳くん、……泣かないでください」
「泣くに決まってんだろ!!」
息を切らしながら、ロウはポケットからくしゃくしゃの紙を取り出した。
銀色の“なんでも券”。
「お願いだから、しぬなよ……お願いだから……!」
その声に応えるように、星導の手がロウの頬に触れた。
微笑んで――言葉にならない息を吐いた。
「……そのお願い、叶えられなくて、すみません」
静かに、目を閉じた。
「なんでも叶えるって……言ったじゃんか……」
泣き叫ぶ声は、夜の街に溶けていった。
それから、数ヶ月。
部屋のカーテンは閉ざされたまま。
机の上には、あの日の封筒が今も残っていた。
ロウはその封筒を握りしめながら、ぽつりと呟く。
「外、出てみよっかな……」
外の風は、もう春の匂いをしていた。
足を向けた先――駅前のベンチに座る青年が、こちらを見上げた。
髪の色、声の調子、笑い方。
全部、星導ショウにそっくりだった。
「……あの、星導……?」
青年は首をかしげる。
「あ、俺ですか? 星導晶(ほしるべ・しょう)です」
その名前を聞いた瞬間、ロウの心臓が跳ねた。
“晶”――。かつて、Vtaで共に練習していた同期の名前。
でも、そのはずはない。もうずっと前に……。
「俺のこと、知ってるんですか?」
晶の問いかけに、ロウは何も言えず、ただ見つめた。
あの日と同じ瞳の色。
でも、もう“あの人”じゃない。
わかってる。
けど――
「ごめん、似てる人に見えただけだ」
「そうなんですか、はは……」
晶は無邪気に笑った。その笑い方さえも、酷く残酷だった。
それからというもの、ロウは何度もその場所へ足を運んだ。
会うたびに、晶は少しずつ変わっていった。
時折、星導ショウが使っていた言葉をぽつりと口にする。
仕草、声の抑揚、歩き方。
“まるで、戻ってきたみたいだ”。
でも、晶は記憶を失っていた。
何かを思い出そうとすると、苦しそうに頭を押さえる。
「……小柳、くん?」
ある日、晶がその名前を口にした。
ロウの目から、堰を切ったように涙が溢れた。
「思い出したのか?」
「……ごめん、わからない。でも、この名前を聞くと……胸が痛い」
ロウは微笑んで、静かにその頭を撫でた。
「もういいよ。思い出さなくていい」
季節がまた巡り、桜が散る頃。
ロウの部屋には、あの日の“なんでも券”がまだ置かれていた。
その文字は、もう掠れて読めない。
「……俺も、使っていいよな」
窓の外を見上げながら、ロウは小さく笑う。
「もう一度だけ、会いたい」
風が吹いた。
その音に混じって、かすかな声がした。
『小柳くん』
ロウの頬に涙が伝う。
けれど、その笑顔は穏やかだった。
「……なんでも叶えるって、ほんとだったな、。」
目を閉じたまま、ロウはそのまま息を吐いた。
最後に見たのは、あの日と同じ光の粒。
そして――ふたりの名前が風に溶けた。