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同じ頃 山手線外回り車内
新宿駅から新大久保駅へと、電車は徐行運転をしながら走っていた。
深夜の車内。
ひと昔前なら、外国人観光客や帰宅を急ぐビジネスマンで溢れかえっていた。
ところが、東京ジェノサイド以降そんな光景は見られなくなった。
外国人は我先にと帰国して、人が消えた東京都心の人口は激減し、山手線は20分間隔で運行する形体になっていた。
不測の事態に備え、24時間体制で電車を走らせているのは山手線と中央線。
そして都営地下鉄である。
私鉄は22時に営業を終わらせていた。
閑散とした新宿駅。
車内から見える、ネオンも疎らな新宿の街並みを眺めながら、和久井は、タブレットに転送された遺体案件書に目を通していた。
中川で発見された切断遺体の身元は、シュウ・リーと言う中国籍の男性で、都内の医大で麻酔科医として働いていた。
切断面の切り口は、レーザーによる可能性が高く、その一部は高温による熱傷の痕跡も残っていた。
和久井は考えていた。
シュウはどこで殺され、どこで解体されたのだろうと。
殺害現場よりも場所が肝心だった。
レーザーを備えた施設は限られている。
病院、工場、印刷所。
和久井は、遺体写真の切断面から見える骨を拡大して眺めた。
触れてみたいと思った。
そうすれば、何かが判る気がした。
電車は、新大久保駅を過ぎて高田馬場駅へ向かっている。
アナウンスが寂しげに聞こえた。
『次は高田馬場』
和久井は、タブレットを鞄にしまって目を閉じた。
ガールフレンドの待つ池袋へ向かう中で、様々な想いが去来する。
特捜機動隊員としての重責と、東京という町の漠然とした不安。
そんな世界に、彼女を巻き込みたくは無かった。
『この国は危ないから、故郷のロシアへ帰りな』
と、愛するエレーサに伝えるつもりだった。
電車は、目白駅を過ぎた。
池袋の街明かりは、とても淋しく泣いていた。