コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──十一月。
放課後の校庭は、落ち葉でいっぱいだった。
風が吹くたび、赤や黄色の葉がひらひらと舞う。
長袖の制服が、少し冷たい風を通すけれど、心地いい寒さだった。
図書室で本を読んだあと、ふたりは自然と校庭を歩いていた。
「寒くなってきたな」
「はい。でも、ちょうどいいくらいかも」
先輩はそう言いながら、手をポケットに入れて歩く。
小さな落ち葉の上を踏むたび、カサカサと乾いた音がした。
「こういう音、好きだな」
「落ち葉の音ですか?」
「そう。なんか、秋って感じがするだろ」
「確かに……秋ですね」
並んで歩く距離が、自然に近づく。
互いに意識しすぎず、でもどこか心がざわつく。
「……紬、今日の図書室、誰もいなかったな」
「はい。静かで、よかったです」
「俺も、こういう時間が落ち着く」
少し立ち止まり、先輩が空を見上げる。
夕陽が校舎の窓に反射して、オレンジ色の光がふたりを包む。
「この時間、好きだな」
「……わたしも」
自然に出たその声に、先輩は少しだけ笑った。
夕陽が傾き、影が長く伸びていく。
言葉は少なくても、互いの存在がじんわり伝わる。
ふたりだけの放課後は、秋の色に染まって、静かに進んでいった。