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俺は、ゆっくりと息を吸った。
「……また、戻ってる」
確信だった。
疑いじゃない。
理解だ。
夢でも錯覚でもない。
これは――
繰り返しだ。
「今度こそ……」
喉の奥で言葉が掠れる。
「今度こそ、全員助かる未来に……」
その瞬間。
頭の奥で、
名前が弾けた。
……!!
アリウム。
紫色の花。
警告。
未来。
俺自身。
「……あいつは……」
心臓が早鐘を打つ。
反射的に、
ポケットからスマホを取り出した。
理由は分からない。
でも、分かっていた。
――見るべきだと。
画面が点く。
通知は、
ない。
……いや。
一番下。
DMの欄。
未読、1。
指が、
震える。
開く。
アイコン。
紫色のアリウム。
見覚えがありすぎて、
吐き気がした。
⸻
《アリウム》
「やっと気づいたか」
⸻
息が止まる。
時間を見る。
今日の朝 6:12
……まただ。
目覚める前の時間。
⸻
《アリウム》
「今回は、少し早かったな」
《アリウム》
「でも安心しろ。
まだ“致命的”じゃない」
⸻
致命的?
何がだ。
誰がだ。
画面を握る力が、
強くなる。
⸻
《アリウム》
「一つだけ教えてやる」
《アリウム》
「この世界には、
最初から“ミオ”はいない」
⸻
世界が、
一段階、壊れた。
「……は?」
声が、
自分のものじゃないみたいだった。
⸻
《アリウム》
「消えたんじゃない」
《アリウム》
「生まれていない」
⸻
目の前が、
じわりと歪む。
いない。
最初から。
だから誰も覚えていない。
だから違和感だけが残る。
⸻
《アリウム》
「お前が戻るたび、
“誰か”が世界から削られる」
《アリウム》
「今回は、たまたま彼女だっただけだ」
⸻
……たまたま?
ふざけるな。
喉の奥から、
声にならない音が漏れる。
⸻
《アリウム》
「まだやるのか?」
《アリウム》
「“全員助かる未来”」
《アリウム》
「その言葉、
何周目だ?」
⸻
画面が、
にじむ。
――ああ。
分かった。
⸻
俺が主人公である限り、
誰かが犠牲になる。
俺が進めば進むほど、
世界は薄くなる。
⸻
それでも。
それでも俺は――
スマホを握りしめた。
⸻
「……やるに決まってるだろ」
震えた声で、
そう呟いた。
「だって俺は……」
言葉が、
途中で途切れる。
⸻
“主人公”だから?
それとも――
もう、
それしか残っていないから?