紙から筆先を離し、今一度漏れが無いか確認した後、ことり、と小さな音を立てて筆を置く。…なぜか、酷く疲れている。
ふぅ、と息を吐いて隣を見ると、譜弦がちょうど筆を置いたところだった。俺はそれを確認してから重役に合図を出す。すると隣から役人が出てきて手紙を手に取り素早く鶴を折っていく。瞬く間に完成したそれが机に置かれると、重役は高らかに声を上げた。
「さぁ皆さん。感謝は、願いは鶴へと変化しました。…それでは、文字書き師の方々に神に捧げる舞を舞って頂きましょう。」
重役がそう言うと、集まった人々は口々に感嘆の声を上げる。心の中で飽きもせずよくやるな、と悪態をついてみるも、虚しさは変わらない。俺達は民衆の期待の眼差しを受け、立ち上がり向かい合う。少ししたの顔には、未だに絶望や悲しみ、困惑が綯い交ぜになった感情が浮かんでいる。俺はそんな譜弦の様子に見かねて声を掛けた。
「譜弦、大丈夫。俺がついてるから。」
「兄さん…」
助けを求めるその表情は、普段の大人びた様子よりずっと年相応で、それほど信じられない事だったのだと痛感させられる。
しかし町の音楽隊は、遠慮なく音楽を奏で始める。俺はもう一度譜弦に「大丈夫だ」と呟いてから何度もやった動きを反芻した。
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踊り始めてまだ少し。変わらぬペースで鼓動する心臓は、いつもより少し不安定だった。すでに譜弦は、らしくない間違いを何度かしている。俺はその度に即興の動きで誤魔化しながら譜弦に「大丈夫」と声をかけているが、譜弦の顔色は芳しくない。
でも、しょうがないだろう。いくら大人びていると言っても譜弦はまだ14で、俺より3つも下だ。まだまだ大人では無いし、大人に守られるべき存在だろう。…しかし、真に守ってくれる大人がいない譜弦は、俺しか守ってやれない。なのに譜弦にこんな顔をさせてしまっている。
俺にはそれが、どうしようもなく悲しかった。
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年齢は
狐絃が17
譜弦が14 (3歳差) です。
ヒメノカリス…虚勢 あなたを見つめています
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