「俺の言う事、聞けないのか?」
わざとらしく尊大に言い、ニヤリと笑った彼を見て、私は反抗的な顔をして唇を尖らせる。
「高価な物は要らないです」
「ふぅん?」
尊さんは意味深な返事をしたあと、パッと私から手を離した。
「え……」
突然〝ごっこ〟が終わり、私は途方に暮れる。
彼はベッドの上に胡座をかき、私を見て微笑んだ。
「俺は朱里に着飾ってほしい。お前が望む物をすべて買うぐらいの金はあるつもりだし、綺麗なお前を見て満足したい。それで〝お礼〟として気持ちいい事をしたい」
「見返りありきじゃないですか。そんな回りくどいやり方をしなくても、恋人なんですからエッチぐらいしますよ」
すると彼はなんとも言えない表情で笑う。
「俺、中途半端に金持ったおっさんだから、若い朱里には貢ぎたくて仕方ないんだよ」
「なんですかそれ!」
私は両手で胸元を覆った姿で突っ込みを入れる。
「何もしなくても朱里が応えてくれるのは分かってるけど、贈り物をしたいんだ。……それに、今みたいにちょっといじめてみたい」
彼の言葉を聞いて、「あ」と腑に落ちた。
尊さんはお母さんが亡くなるまではまだしも、篠宮家に引き取られたあとは、主に怜香さんから否定され続けて育った。
こんなに格好良くて何でもできる人だけど、彼はきっと自己肯定感が低い。
お金を使って高価な物を差しださなければ、私に愛し返してもらえないと本能的に不安を感じているのかもしれない。
「いじめたい」と言ったのだってそうだ。
少し意地悪な事を言って私を恥じらわせ、それでも愛してくれるかどうか試している。
尊さんの不器用な愛情表現に切なくなった私は、フワッと彼を抱き締めた。
「何もしなくても、私は無条件であなたを受け入れて愛しますよ。わざと意地悪をして試さなくたって、あなたから離れません」
彼の耳元で囁くと、尊さんは溜め息をついて私を抱き締めてきた。
「……格好悪ぃな」
その言葉を聞き、私はにっこり笑う。
「いいんですよ。分かりますから」
尊さんはもう一度息を吐いたあと、自分の気持ちを確かめるように言った。
「俺は、お前が望むセックスをしたい。……俺とお前は気が合うから、多分望みは一致してると思う」
そう言って、彼は優しく私の頭を撫でる。
「勿論、怖がる事はしないし、意思を無視した事もしない。心から、気持ちを込めて奉仕する」
そう言われて、頭に『SM』という単語が浮かんだ。
サドとマゾじゃなくて、サービスと満足、サーヴァントとマスターだ。
一見、Sと言われている人が攻めて主導権を持っているように見えるけれど、本当はSはMのために奉仕し、気持ちよくなってもらいたいと願っている。
それを思いだした私は、尊さんの言っている事を理解した。
(強引なエッチになるのも、優しいエッチになるのも、私次第なんだ)
そして、多分私は……、自分を見失うぐらいの激しいセックスを求めている。
理解した途端、私はジワリと頬を染める。
「……最初は優しくしてほしいです。……慣れてないのに強くされるのは嫌です」
要望を口にすると、尊さんは頷いた。
「了解」
彼はバスローブを脱ぎ、膝立ちになると私の両頬を手で包んでくる。
「好きだよ」
尊さんは囁くように言ってから、私に優しくキスをしてきた。
「ん……、……ぅ、……ふ……」
何回も唇を優しくついばみ合い、私たちはお互いの体を愛撫していく。
尊さんの温かな手が肌を這うたび、体の芯にポッと小さな熱が宿っていく感じがした。
「は、――ふ、……ん、んぅ……、んっ」
舌を絡ませるいやらしいキスをしていると、尊さんはツゥッと私の背中を辿ってくる。
そしてお尻をムニュムニュと揉んできた。
「んっ、ぅ、……あっ、…………はぁっ、あ……」
私は耳や首筋にキスをされ、舌を這わされて、ゾクゾクと身を震わせる。
「……せっかく可愛い下着つけてくれたのに、つけたままできないの残念だな。……そうだ。今度、大事な部分だけ出てる奴セクシーランジェリーを着てやってみるか」
「やだ、もう……っ」
ペシンと彼の胸板を叩くと、彼は目を細めて笑った。