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男が好きで何が悪い

17 - 第16話 手を繋いでいられるように

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2025年07月24日

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その翌日から
俺と圭ちゃんの間には、それまでとは違う


ほんのりと甘やかな緊張感が漂い始めた。


それはきっと、俺だけがそう感じていたのかもしれないけれど


これまで当たり前だったはずの距離感や会話のテンポがどこか違って見えたのだ。


まるで、透明な膜が一枚張られたかのように


互いの存在がより鮮明に、そして繊細に感じられるようになった。


世界は、確かに昨日の夕暮れを境に、色を変えたのだ。


あの噴水での出来事は、俺の意識の全てを塗り替えるほど強烈な体験だった。


昨日の夕方


圭ちゃんの隣を歩きながら、改めて「好きになってよかった」と伝えたときのあの胸の高鳴りが


まだ全身の細胞の一つ一つにまで残っているかのようだった。


鼓動は、あの瞬間からずっと、普段より少しだけ早く、そして力強く打ち続けている。


その振動が、指先から足の先まで熱となって巡っているのを感じる。


時に、その熱は胸の奥で小さな光となって瞬き


俺の心をそっと照らしているようだった。


朝、目を覚ますと、まず圭ちゃんのことが頭に浮かび、その瞬間に頬が緩む。


そんな日々が、今は当たり前になっていた。


教室でお昼ご飯を一緒に食べる時も、その変化は|顕著《けんちょ》だった。


圭ちゃんがいつものように何の気なしに俺の弁当を覗き込もうとするたびに


俺は無意識に体を引いてしまう。


まるで、その視線が触れるだけで全身が発火してしまいそうな気がしたからだ。


いや、実際、心臓は熱く燃え上がっていた。


視線が、不意に絡み合うと途端に頬がカーッと熱くなり、慌てて目を逸らす。


その熱は、きっと耳まで真っ赤に染めているに違いない。


圭ちゃんは、そんな俺のぎこちなさを見て


小さく「なんだよりゅう、今日変だぞ?」と笑う。


その声すら、以前よりずっと甘く


そして俺の心臓を締め付けるような響きを持っていて、心臓がいくらあっても足りないと感じた。


彼の口から紡がれる一言一言が俺の感情を揺さぶり、身体の奥深くまで響き渡る。


たまご焼きを差し出す指先が、不意に触れ合えば


もう耐えられない。


指の腹から伝わる圭ちゃんの体温は、まるで熱を持った電気のように


一瞬で俺の神経を駆け巡る。


触れた部分から、じんわりと温かさが広がり


やがて全身を包み込む。


食堂の喧騒も、友人の陽気な笑い声も


何も耳に入ってこない。


まるで、俺たちの周りだけ、世界の音が遮断されたかのように静まり返っていた。


この広い空間で、圭ちゃんと俺


たった二人だけが存在しているかのような錯覚に陥る。


その甘く、そして切ない感覚に、俺はただただ溺れるしかなかった。


周りの生徒たちが、何気なく俺たちを見ているような気がして思わず身を固くする。


この胸の高鳴りを、誰かに気づかれてしまうのではないかという、甘美な恐怖。


購買に行くときも、圭ちゃんが「購買行こうぜ」って言えば、俺は当然のように隣を歩く。


これまで何度も繰り返してきた、ごく日常の光景だ。


しかし、一歩ずつ足を進めるたびに


肩が、腕が不意に触れ合うのではないかと


俺の体は硬直する。


少しでも接触すれば、心臓が爆発しそうなほど高鳴ることを俺はもう知ってしまったからだ。


実際、何度となく触れ合った。


まるで、磁石のように互いに引き寄せられるように、自然と体が触れ合う。


そのたびに、全身に電流が走り


まるで全身の血が逆流するような感覚に陥り


心臓が大きく脈打った。


その衝撃は、まるで内側から光が弾けるようで、俺の意識を奪う。


周りの視線が、やけに気になるようになったのも、この頃からだ。


俺たちの間に流れる、この特別な、甘い空気。


それは、親友同士のものではなく


もっと深く


もっと秘密めいた、甘い気配。


誰かに気づかれてしまうのではないかという不安と


それでも隠しきれない喜びが胸の内で激しく鬩ぎ合う。


視線を送るたび、触れ合うたび


まるで罪を犯しているかのような背徳感と


しかしそれ以上に、この秘密を分かち合っているという|陶酔《とうすい》感に酔いしれた。


俺の表情は、きっといつもより少しだけ緩んでいるに違いない。


圭ちゃんも、時折


俺と同じように少しだけ照れたような顔を見せる。


その度に、俺たちは互いの感情を確認し合うように、小さく頷き合った。


移動教室のときも、それは同じだった。


「りゅう、ファイル忘れてんぞ」


なんて、少し呆れたような


でもどこか優しい声で圭ちゃんに声をかけられ


頭にぺしっとファイルを当てられる。


以前なら当たり前で、何とも思わなかったその言葉が今は特別な響きを持つ。


彼の心配そうな瞳が、俺の心を温かく包み込み


頭を撫でられているかのような錯覚に陥った。


たったそれだけのことで、俺の胸は温かい液体で満たされるように膨れ上がった。


指が、ほんの一瞬だけ触れ合う。


その指先に伝わる微かな温もりが、俺の心を乱すのに十分だった。


放課後だって


「今日姉ちゃんしかいねぇから来るか?お前のこと話したいし」


って誘ってくれる圭ちゃんの声が


今まで以上に優しく、そして、どこか熱を帯びているように感じられた。


俺のこと、話したいって……


その言葉だけで俺の心は温かい光に包まれる。


俺の全てを、彼は知ろうとしてくれている。


ああ、やっぱり俺の居場所はここしかないんだなって、そう思えて。


胸の奥があったかくて、嬉しくて、全部夢みたいだった。


こんなにも、誰かに必要とされていると感じたのは、生まれて初めてのことだったかもしれない。


彼の声は、まるで子守唄のように俺の心に安らぎを与え


同時に、これから始まる新しい未来への期待を膨らませる。


けれど、もうこれは夢なんかじゃない。


あの噴水での出来事は、確かに現実だった。


圭ちゃんのあの言葉も、俺の唇に残る感触も


紛れもない真実なのだ。


俺の心に刻まれた、あの瞬間は、永遠に消えることのない光として俺の未来を照らし続けてくれるだろう。


彼の腕の中に包まれた時の温もり


耳元で囁かれた甘い言葉。


その全てが、俺の脳裏に鮮明に焼き付いている。


二人きりになると、圭ちゃんは少しだけ俺に甘えるようになった。


それは、親友だった頃の遠慮のない態度とは異なり


もっと繊細で、しかし確かな繋がりを感じさせるものだった。


授業中に、ふと俺だけに送られてくる熱を帯びた視線。


その視線に気づいて、思わず振り返ると彼は小さく笑って、またすぐに前を向く。


そんな、たったそれだけの仕草が、俺の心を締め付ける。


放課後、人通りの少ない場所で、圭ちゃんはそっと何の言葉もなく俺の手を繋いでくる。


最初は、戸惑いと緊張で手がこわばったけれど


すぐに彼の温かさに慣れ、自然と指を絡ませるようになった。


指が絡まるたびに、じんわりと広がる熱が俺の心を溶かしていく。


それは、これまで圭ちゃんが俺に見せてくれていた「親友」としての


無邪気で、まっすぐな優しさとは、明らかに違うものだった。


もっと深い、もっと甘い、恋人のための愛情。


その愛情が今、俺だけに向けられている。


もちろん、不安がないわけではなかった。


杉山さんの「社会のはみ出し者」という言葉は、まだ心の奥底にチクリと刺さったままだ。


男同士で付き合うということの難しさ。


世間の目


圭ちゃんが言ってくれたように、親や友人に簡単に話せることではない。


秘密を抱えていることへの緊張感も、常にあった。


ふとした瞬間に


この関係が壊れてしまうのではないかという恐怖が鎌首を擡げることもあった。


しかし、圭ちゃんの温かい眼差しと


その繋がれた手の温もりが、その不安を掻き消してくれる。


それ以上に、圭ちゃんの存在が俺の心を強くしていた。


彼が隣にいてくれるなら


圭ちゃんと一緒ならどんな困難も乗り越えられる。


いや、乗り越えたい。


そう、心から思えるようになったのだ。


俺は、今まで自分自身を否定してきた。


誰にも理解されない中途半端な存在だと、勝手に決めつけていた。


どうせ誰にも受け入れてもらえないと、心を閉ざしていた。


けれど、圭ちゃんは、そんな俺の全てをまるごと肯定してくれた。


俺の隠していた部分


誰にも見せたくなかった弱さ。


その全てを、彼は「それでいい」と抱きしめてくれた。


その事実は、俺の人生に、鮮やかな色彩を与えてくれた。


モノクロだった世界が、少しずつ、色鮮やかな光景へと変わっていく。


圭ちゃんの隣を歩く俺は、まだどこか浮足立っていたけれど


その足取りは、かつてないほど軽かった。


もはや、重い枷を外されたかのように軽やかだった。


圭ちゃんの温かい手が、俺の指に優しく絡まる。


その温もりは、俺の不安を溶かし、勇気をくれる。


お互いが同じ温度なら、もう、迷うことはない。


圭ちゃんとの「いつものふたり」は


もう「特別なふたり」になった。


そして、その特別な日々は、始まったばかりなのだ。

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