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名前のない約束

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名前のない約束

5 - 第5話 その人は、まだ生きている

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2026年01月24日

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朝の光は、やけに優しかった。
 木漏れ日が、ノアの頬を照らす。

 鳥の声。

 焚き火の残り香。


 ノアは、ゆっくりと目を開けた。


 ――夢を、見ていた。


 あまりにも、鮮明な夢。


「……カイ……」


 呟いた瞬間、

 胸の奥が、ずきん、と痛んだ。


 指輪を、ぎゅっと握る。


 ……今日は、歩けそうにない。



 ノアは、焚き火のそばから離れ、

 一人で森の奥へ歩いた。


 気づけば、

 小さな湖のほとりに立っていた。


 水面に映る、自分の顔。


 ――二年前より、少しだけ大人びてる。


「……私、変わった?」


 答えは、返ってこない。


 ノアは、そのまま座り込んだ。


 指輪を外し、手のひらに乗せる。


 その瞬間――


 記憶が、溢れ出した。



――二年前・旅の途中の村――


「ノア、また無茶してただろ」


 宿屋の一室。

 ベッドに寝かされてるノアに、カイが呆れ顔で言う。


「……してない」


「嘘つけ」


 カイは、ノアの額に手を当てる。


「熱あるじゃん。

 お前、自分の身体どうなってるか分かってんの?」


「……カイの方が無茶する」


「俺はいいの」


「よくない」


 にらみ合って、

 どっちからともなく、吹き出した。


「……ねえ、カイ」


「ん?」


「私、強い?」


 カイは、少し考えてから言った。


「……強いよ。

 でも、それ以上に……」


「それ以上に?」


「……優しすぎる」


 ノアは、眉をひそめた。


「……それ、嫌味?」


「褒めてんだよ」


 カイは、ノアの頭をくしゃっと撫でた。


「お前さ。

 敵でも、倒す前に“迷う”だろ」


「……だって」


「それが、お前のいいとこ」


 カイは、少し真剣な顔になる。


「……だからさ」


 ノアを見る。


「俺が横にいる」


「……なんで?」


「お前が、誰かを殺す前に止めるため」


 ノアは、目を逸らした。


「……カイ、変なこと言う」


「……変じゃない」


 その声は、少しだけ震えてた。



――別の日・海辺の町――


 夕焼けの海。


 ノアとカイは、並んで座っていた。


「……海、好き?」


 ノアが聞く。


「別に」


「……じゃあ、なんで来たの」


「お前が行きたいって言ったから」


 ノアは、少し驚いた顔をした。


「……私、言ったっけ」


「言ってた」


「……覚えてない」


 カイは、くすっと笑った。


「……ノアさ」


「なに」


「旅、終わったら……」


 一瞬、言葉に詰まる。


「……俺、普通の生活してみたい」


「……普通?」


「朝起きて、飯食って、仕事して」


 ノアは、海を見る。


「……退屈そう」


「お前がいたら、退屈じゃない」


 ノアの指が、少しだけ震えた。


「……それ、どういう意味」


「そのまんま」


 ノアは、顔を赤くして、そっぽ向いた。



――死亡前夜――


 森の中。

 焚き火の前。


 ノアは、カイの隣に座っていた。


「……ねえ、カイ」


「ん?」


「私さ……」


 言いかけて、やめる。


「……何」


「……なんでもない」


 カイは、ノアを見る。


「……言えよ」


 ノアは、ぎゅっと拳を握る。


「……この旅、終わったら……」


 顔を伏せたまま。


「……私……」


 言葉が、出てこない。


 カイは、静かに言った。


「……ノア」


「……なに」


「……俺、気づいてたよ」


 ノアが顔を上げる。


「……何に」


「お前が、俺のこと好きなこと」


 ノアの顔が、真っ赤になる。


「……っ!?」


「で」


 カイは、少し困ったように笑う。


「俺もだ」


 ノアの喉が、ひくっと鳴る。


「……それ、今言う……?」


「今じゃなきゃ、言えなくなりそうだった」


 ノアは、涙目になる。


「……ずるい……」


「……ごめん」


 でも、カイは優しく笑ってた。


「……生きて帰ろうな」


「……うん」


 ノアは、小さく頷いた。


「……海、また行こう」


「……約束な」



 ――そこで、記憶は途切れた。



 湖のほとり。


 ノアは、ぼろぼろ泣いていた。


「……なんで……」


 声が、震える。


「……あんなこと……言わせたまま……」


 胸が、苦しい。


「……私……ちゃんと……好きって……言えてない……」


 指輪を、強く握りしめる。


「……カイ……」


 そのとき――


 背後から、静かな足音。


 アイリスだった。


 何も言わず、ノアの隣に座る。


「……夢、見た?」


 ノアは、頷いた。


「……うん……」


「……幸せな夢?」


「……ううん……」


 少し笑って、泣く。


「……幸せだった記憶……」


 アイリスは、ノアの肩にそっと手を置いた。


「……それ、消えないよ」


「……消えてほしい……」


「……なんで?」


「……苦しいから……」


 アイリスは、静かに言った。


「……それでも、それが“あんたの人生”」


 ノアは、目を閉じた。


「……私……」


 小さく息を吸う。


「……カイが死んでから……

 時間、止まってた……」


「……うん」


「……でも……」


 胸に手を当てる。


「……レイヴンといると……

 ちょっとだけ……動く……」


 アイリスは、何も言わず、頷いた。



 夜。


 焚き火の前。


 ノアは、一人で指輪を見つめていた。


 そこに、レイヴンが来る。


「……アイリスから聞いた」


「……なに」


「……今日、泣いてたって」


 ノアは、少しだけ苦笑した。


「……見られたくなかった……」


 レイヴンは、隣に座る。


「……カイのこと……

 もっと、教えてくれ」


 ノアは、少し間を置いてから言った。


「……優しい人だった」


「……それだけ?」


「……ずるい人でもあった」


「……どういう意味」


「……私が言えないこと……

 全部、先に言う人だった……」


 ノアの目が、潤む。


「……私……

 まだ……あの人のこと……」


「……好きなんだろ」


 レイヴンは、静かに言った。


 ノアは、頷いた。


「……うん……」


 レイヴンは、少しだけ目を伏せた。


「……それでも……」


 ノアを見る。


「……今のお前が好きなのは……

 “今”だ」


 ノアの胸が、きゅっと締まる。


「……それ、ずるい……」


「……知ってる」


 レイヴンは、苦く笑った。


「……でも……

 それでも、好きになるんだよ……」


 ノアは、何も言えなくなった。


 ただ、焚き火を見つめていた。



 その夜、ノアは夢を見なかった。


 代わりに――

 初めて、“明日”のことを考えた。

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