テラーノベル
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朝の光は、やけに優しかった。
木漏れ日が、ノアの頬を照らす。
鳥の声。
焚き火の残り香。
ノアは、ゆっくりと目を開けた。
――夢を、見ていた。
あまりにも、鮮明な夢。
「……カイ……」
呟いた瞬間、
胸の奥が、ずきん、と痛んだ。
指輪を、ぎゅっと握る。
……今日は、歩けそうにない。
⸻
ノアは、焚き火のそばから離れ、
一人で森の奥へ歩いた。
気づけば、
小さな湖のほとりに立っていた。
水面に映る、自分の顔。
――二年前より、少しだけ大人びてる。
「……私、変わった?」
答えは、返ってこない。
ノアは、そのまま座り込んだ。
指輪を外し、手のひらに乗せる。
その瞬間――
記憶が、溢れ出した。
⸻
――二年前・旅の途中の村――
「ノア、また無茶してただろ」
宿屋の一室。
ベッドに寝かされてるノアに、カイが呆れ顔で言う。
「……してない」
「嘘つけ」
カイは、ノアの額に手を当てる。
「熱あるじゃん。
お前、自分の身体どうなってるか分かってんの?」
「……カイの方が無茶する」
「俺はいいの」
「よくない」
にらみ合って、
どっちからともなく、吹き出した。
「……ねえ、カイ」
「ん?」
「私、強い?」
カイは、少し考えてから言った。
「……強いよ。
でも、それ以上に……」
「それ以上に?」
「……優しすぎる」
ノアは、眉をひそめた。
「……それ、嫌味?」
「褒めてんだよ」
カイは、ノアの頭をくしゃっと撫でた。
「お前さ。
敵でも、倒す前に“迷う”だろ」
「……だって」
「それが、お前のいいとこ」
カイは、少し真剣な顔になる。
「……だからさ」
ノアを見る。
「俺が横にいる」
「……なんで?」
「お前が、誰かを殺す前に止めるため」
ノアは、目を逸らした。
「……カイ、変なこと言う」
「……変じゃない」
その声は、少しだけ震えてた。
⸻
――別の日・海辺の町――
夕焼けの海。
ノアとカイは、並んで座っていた。
「……海、好き?」
ノアが聞く。
「別に」
「……じゃあ、なんで来たの」
「お前が行きたいって言ったから」
ノアは、少し驚いた顔をした。
「……私、言ったっけ」
「言ってた」
「……覚えてない」
カイは、くすっと笑った。
「……ノアさ」
「なに」
「旅、終わったら……」
一瞬、言葉に詰まる。
「……俺、普通の生活してみたい」
「……普通?」
「朝起きて、飯食って、仕事して」
ノアは、海を見る。
「……退屈そう」
「お前がいたら、退屈じゃない」
ノアの指が、少しだけ震えた。
「……それ、どういう意味」
「そのまんま」
ノアは、顔を赤くして、そっぽ向いた。
⸻
――死亡前夜――
森の中。
焚き火の前。
ノアは、カイの隣に座っていた。
「……ねえ、カイ」
「ん?」
「私さ……」
言いかけて、やめる。
「……何」
「……なんでもない」
カイは、ノアを見る。
「……言えよ」
ノアは、ぎゅっと拳を握る。
「……この旅、終わったら……」
顔を伏せたまま。
「……私……」
言葉が、出てこない。
カイは、静かに言った。
「……ノア」
「……なに」
「……俺、気づいてたよ」
ノアが顔を上げる。
「……何に」
「お前が、俺のこと好きなこと」
ノアの顔が、真っ赤になる。
「……っ!?」
「で」
カイは、少し困ったように笑う。
「俺もだ」
ノアの喉が、ひくっと鳴る。
「……それ、今言う……?」
「今じゃなきゃ、言えなくなりそうだった」
ノアは、涙目になる。
「……ずるい……」
「……ごめん」
でも、カイは優しく笑ってた。
「……生きて帰ろうな」
「……うん」
ノアは、小さく頷いた。
「……海、また行こう」
「……約束な」
⸻
――そこで、記憶は途切れた。
⸻
湖のほとり。
ノアは、ぼろぼろ泣いていた。
「……なんで……」
声が、震える。
「……あんなこと……言わせたまま……」
胸が、苦しい。
「……私……ちゃんと……好きって……言えてない……」
指輪を、強く握りしめる。
「……カイ……」
そのとき――
背後から、静かな足音。
アイリスだった。
何も言わず、ノアの隣に座る。
「……夢、見た?」
ノアは、頷いた。
「……うん……」
「……幸せな夢?」
「……ううん……」
少し笑って、泣く。
「……幸せだった記憶……」
アイリスは、ノアの肩にそっと手を置いた。
「……それ、消えないよ」
「……消えてほしい……」
「……なんで?」
「……苦しいから……」
アイリスは、静かに言った。
「……それでも、それが“あんたの人生”」
ノアは、目を閉じた。
「……私……」
小さく息を吸う。
「……カイが死んでから……
時間、止まってた……」
「……うん」
「……でも……」
胸に手を当てる。
「……レイヴンといると……
ちょっとだけ……動く……」
アイリスは、何も言わず、頷いた。
⸻
夜。
焚き火の前。
ノアは、一人で指輪を見つめていた。
そこに、レイヴンが来る。
「……アイリスから聞いた」
「……なに」
「……今日、泣いてたって」
ノアは、少しだけ苦笑した。
「……見られたくなかった……」
レイヴンは、隣に座る。
「……カイのこと……
もっと、教えてくれ」
ノアは、少し間を置いてから言った。
「……優しい人だった」
「……それだけ?」
「……ずるい人でもあった」
「……どういう意味」
「……私が言えないこと……
全部、先に言う人だった……」
ノアの目が、潤む。
「……私……
まだ……あの人のこと……」
「……好きなんだろ」
レイヴンは、静かに言った。
ノアは、頷いた。
「……うん……」
レイヴンは、少しだけ目を伏せた。
「……それでも……」
ノアを見る。
「……今のお前が好きなのは……
“今”だ」
ノアの胸が、きゅっと締まる。
「……それ、ずるい……」
「……知ってる」
レイヴンは、苦く笑った。
「……でも……
それでも、好きになるんだよ……」
ノアは、何も言えなくなった。
ただ、焚き火を見つめていた。
⸻
その夜、ノアは夢を見なかった。
代わりに――
初めて、“明日”のことを考えた。
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