渡辺side
〜海がとても綺麗ですね
空はいつ晴れますか?〜
めめがくれたプレゼントに一緒に入っていた手紙の隅に小さく小さく添えられた言葉
軽やかに書かれた”元気になって”といった旨のシンプルなメッセージとは違い、書かずにはいられなかったような衝動を感じる強さが、その小さな文字にはあった
まるで、思わず添えてしまったかのような
この言葉を流してはいけない気がした
「あべちゃん、教えて欲しいことがあるんだけど」
あの決定的な失恋の日から初めて、”自分から”あべちゃんに声をかけた
声をかける刹那、もうちゃんと寂しい恋心を過去形にできてることが、急に胸にストンと落ちた
「どうしたの?」
「これってどういう意味かわかる?」
そこだけをアップで撮った写真を見せる
「うーん?…あぁ、前半はそれなりに有名だよ、『あなたに溺れています』だね。『月が綺麗ですね』が『あなたが好きです』って意味だよっていうのの派生だよ」
「あぁ、聞いたことあるかも」
「後半は、んー、どうだろう。多分だけど、この文脈で読むなら、『私の思いはいつ晴れますか?』かな?気付いて欲しいって言ってるね……大告白だな、誰かに言われたの?」
「………うん」
「じゃあ翔太はその人に、大事に大事に想われているんだね」
「そっか……」
その意味を知った瞬間に、
めめの手が、声が、背中が、眼差しが、浮かんでは消えて、俺の心がじんわりと色づいていった
そして、あべちゃんに対してずっとあった感情から1歩、ようやく身を引けたような、そんな感覚があった
今まで言えなかったことが嘘のように、口からスラスラと出る
「……あのさ、あべちゃん、おれ、ずっとあべちゃんのこと好きだったんだ」
「……え」
「佐久間と付き合ったって聞いた時は悲しかったけど、あべちゃんが幸せそうだったからお祝いしたいと思ったことも本当で」
「…うん」
「だけど、諦めなきゃって思って置いてきた心がずっと遠くで泣いてて、苦しくて……。ここ最近変だっただろ、おれ。ごめん。」
「ううん」
「でも、その心ごと抱きしめようとしてくれる人が、ずっと傍にいてくれたことに、馬鹿なおれは、今ようやく気づけたみたいなんだ」
「……そっか、大切にしなきゃね」
「うん」
「翔太、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。あべちゃんのこと好きになれて良かった」
「うん。……俺、翔太のことを想ってくれてる人、なんとなく分かるかも。頑張ってね」
「うん」
報われなかったけどいい恋だった
最後にそっとハグをして、あべちゃんに手を振り、おれは携帯を取り出しながら走り出す
コメント
2件
青春だぁー。泣いちゃう。
