目黒side
涙を見せたあの日から、翔太くんは幾分かスッキリとした顔つきをしている
阿部ちゃんのことはまだ好きなのかもしれないけど、気持ちは徐々に落ち着いていっているように見える
前のように思い詰めた暗さがなくなって、静かに自分の心と向き合っている様子だ
その内面の穏やかさを映すように、また纏う空気が優美になった
その眼差しには、もう寂しさは映り込んでいない
肩の荷が降りたように軽やかになって、和やかに笑う
プレゼントを渡した時も、ふふふ、と溢れた微笑みに、俺はますます見惚れてしまった
その清廉さに、俺のぐるぐると渦巻いた仄暗い期待も、ぜんぶ洗い流されてくれればいいのに
気づかなくっていいんだ……でもほんとは、気づいてほしい
笑っていてくれればそれでいいんだ……いやほんとは、振り向いてほしい
元気になってくれればそれだけで嬉しい……だけど、俺を置いて前へ進んでしまわないで
混沌とした気持ちはずっとずっと俺を苛む
翔太くんの笑顔を望む気持ちは本物だ
だけど、叶うことなら、
澄んでよく通るその声で呼ぶのは俺の名前であって欲しい
優しく細められるその瞳が探すのは俺の姿であって欲しい
その隣で、なんでもないことで笑い合って、幸せを分かち合うのは俺であってほしい
そしたらきっと何もいらない
贈ったプレゼントは、もう翔太くんの手の中だ
消せないで渡った手紙のあの二言に、あの人は気づくだろうか
俺はあれからずっと、何かが変わって欲しいという期待感と、何も変わらなくてもいいという臆病さとを抱えて過ごしている
コメント
1件
