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「ハアハア、今がその時、直球で言う。好きだ付き合ってくれ、ゼーゼー」
「ゼーゼー、ハアハア、い・や・だ」
歌って踊りまくったコンサートが終わり、アンコール8回ともう笑顔が固まり白目を剥きそうな状態で2人は楽屋に戻っていた。
モニターからはまだファンからの「アンコール」の声が聞こえている。
白いブラウス・王子様系のアイドルの莉音は、持って生まれた罪なほど(本人談)美しい顔をアピールしようと、汗で乱れた栗色の髪をかきあげながら15回目の告白をした。
告白されたコンビを組む黒いブラウス、クールな切れ長の瞳の悪魔系アイドル・礼央は、15回目のお断りをキッパリとした。
「うわーまたもや冷たくもそっけない言い方。ハアハア、この美しい僕を目の前にして信じられない」
「信じられないのはおまえだ。ハアハア、しつこい」
「本当に礼央が好きなんだよ。ゼーゼー…水、どこ水は」
「やめろってば。水、俺も水」
「はい、これ。むせるからゆっくり飲めよ」
さっきから部屋にいたのだが、置物のように無視されていたマネージャーの相馬義人26歳は無表情で目の前の2人によく冷えたペットボトルを差し出した。
この共に18歳の2人のアイドル・SLEEPが事務所に入った時から担当になって3年。
レッスン期間2年を経て昨年デビュー。
「SLEEP」…眠りについたその時、夢に出て来て微笑む天使と、クールにみつめる悪魔のイメージのコンビ。
売れた売れた、CMにも起用されデビュー半年にしてドームコンサート!
マネージャーとして事務所でも鼻高々…なはずだが、まさか2人がこんな愉快…いや、困った状態になるとは想像もしていなかった。
デビュー前。
スマホでパシャリがいつでも誰でもお気軽にできる時代、大事な時期だと女の子とのスキャンダルには目を光らせ、常に目が届く様に2人を同じマンションに住ませた。
ダンスと歌のレッスンのスケジュールもかなり詰めて組んだが、これは2人が真面目にこなしてくれた。早くデビューしたいからだと。まあ良いことだ。
とにかく女の子と遊ぶ余裕などないほど疲れ切る毎日を彼らは送っていた。
そんな中で莉音が恋をした。
コンビの礼央に。
…何故だ。
莉音は性格はおいといて、「儚げで美しい」と形容される顔をしていて、本人曰く保育園の頃からよくもてていたと言う。
実際小学生の時から何人もの女の子と付き合ってきたらしい。
が、高1で事務所にスカウトされて本人が了解したと同時に、社長から女の子と遊んではダメとストップをかけられた。
「芸能人になって世の全ての女の子を幸せに僕はしたいんです…あの、多数は我慢して彼女2、3人持ちはダメですか」
そう真剣に言って事務所スタッフに囲まれて説教されたらしい。
アホか。
一歩の礼央は幼い頃から歌が好きで、海外物のミュージカルに出たくてオーデションに合格して事務所へ。
大手事務所をバックに舞台のオーデションにチャレンジの予定が、予想外にアイドルとして、しかも女ったらしのふわふわした同い年の男とコンビで売り出されると知り、嫌だ嫌だ、とショックで数日間寝込んだらしい。
これはチャンスだ現実を知れ。
「…今日はうまくいくと思ったんだけどなあ、初めてのドームコンサート終わりのたかぶった礼央のハートに訴えたら」
「きしょい。莉音、おまえもう人生終えたら?」
「ふふ、照れているのはマネージャーが見ているからかな?」
「あれ、いたの相馬さん」
「好きで見てない。さっきから楽屋にいる。早くホテルに戻るぞ、着替えろ。あっ、言い忘れていた。お疲れ様、よくやった。先に帰った社長も喜んでらしたぞ」
「ありがとうございます」
「言葉に気持ちがこもってない!礼央、相馬さん目を合わせないで言ってるぞ」
「俺だっておまえと目を合わせたくない」
このコント…いや告白?を見慣れてしまった相馬は、テキパキと会場脱出の準備をし出した。
「ホテルでスタッフと打ち上げをするからな。部屋でシャワーを浴びて支度しろ」
「えー、もう僕、しんどい、3時間のコンサートのあとだよ?打ち上げなんて。休みたいよ」
「莉音、俺たちはたくさんの人に世話になってるんだ。出ろ」
「礼央、僕がいなきゃ寂しいんだね。わかった、君のために出るよ」
「だからきしょい言い方はやめろ」
「誘ったくせに照れてる〜」
もうどうでもいいから早く今日が終わってほしいと、相馬は頭を抱えた。
誰かマネージャー代わってくれないかな。
いや、これは普通の神経じゃ扱えないな。それに秘密が漏れたら大変だし。
「相馬さん、眉間に皺が寄ってるよ。あの、毎回言ってるけど俺はマトモで、変なのは莉音オンリーだからね。さ、行くぞ莉音」
そう言いながら礼央は莉音の腕を掴んで引っ張った。
「疲れた…歩けないよ。でもキスしてくれたら走れるかも」
礼央は舌打ちをし、
舌打ちをし…
顔を寄せ…
莉音に軽くキス。
「もっと」
莉音が礼央を引き寄せ
ディープキス。
…何か絵になる。
じゃない!
勘弁してくれ。
何だよ礼央、拒否してるんじゃないのかよ。
…もしかして、もうデキてるのか?
ふふふ、と莉音は勝ち誇った顔をした。
一方の礼央は相変わらず無表情で、何事もなかったように相馬を見た。
「打ち上げには西宝劇場新作ミュージカル関係者が来てくれるよね。大きなコンサートを成功させたんだから」
…あのね、何故打ち上げに無関係のミュージカル関係者が来るの。
で、礼央おまえ、キスは握手とイコール程度としか考えてないな。
2人の荷物を抱えて相馬は出口へと向かった。
会場スタッフが廊下で手招きしている。
「こちらに脱出用の車を用意しました。ダミーの車が先程出ました」
「ありがとうございます」
一歩楽屋を出たら莉音は照れ臭そうに、さらに微笑みを振りまきながら歩き出した。
礼央は礼儀正しく、スタッフに頭を下げながら歩いている。
とにかく成功したんだよ…
評判は伝わり、各分野からのオファーも増えるだろう。
2人が脱出用のバンに乗り込んだ時、助手席の相馬のスマホが鳴った。
相手を確認し、あっ、と小さく声を上げた。
「あ、うん、今終わった。まだ打ち上げがあるけどね。今夜もホテル泊まりだ。うん、明日には帰れる。ちゃんと食ってるか?」
見ていた莉音が礼央の耳元で小さな声で呟く。
「相馬さんの電話の相手、恋人だよ。待ち受けの名前見えちゃった。ダセエの、秘密って名前で登録してる。わかりやすいよねー」
「へえ、彼女いるんだ。仕事命みたいな人に」
「彼女じゃなくて男だよ。声が漏れ聞こえちゃった」
「…そっか。まあ、どうでもいいや」
「僕はもっと詳しく知りたいな」
ニヤリと笑う後部席の莉音に、相馬は気づいていなかった…。
続く