ホテルでのコンサート打ち上げは盛り上がった。
莉音と礼央の後ろには相馬がぴったりとくっついていた。
莉音が少しでも変な言動や行動をしたら、テーブルクロスを頭からかぶせて、てるてる坊主姿にして誤魔化すか(いや、余計に目立つ)、あるきは口にマカロンを押し込むか(それはいじめだ)…プランは色々考えていた。
が、そんな心配も杞憂に終わり、最後に彼らはスタッフに頭を深々と下げて拍手に包まれながら退場となった。
「早く眠れよ。明日はオフにしといたから」
2人を部屋の前まで送り、それぞれシングルの部屋に入るのを見届けてから相馬は自分の部屋に戻った。
まあ、あれだけのステージをこなしたんだ。
さすがに2人ともすぐ爆睡するだろう、とあくびをしながら相馬は思った。
…が。
甘い甘い。
礼央が部屋のドアを閉める瞬間、取り立て屋のオッサンのように足を隙間にガッと突っ込み阻止し、笑みを浮かべふわりと莉音が部屋に入り込んできた。
やり方が犯罪に近い事は彼に自覚はない。
その様子を仏像のごとく悟り切った表情で礼央が見ていた。
「驚かないの?」
「…いつもの事だ」
まあ、同居しているマンションでもさんざん同じことを繰り返しているから。
「で、何」
「2人で乾杯しようよ。ホテルの人に頼んで、礼央の部屋の冷蔵庫にミルクを入れておいてもらったよ。20歳以下はワインとはいかないから」
ワイングラスにパック牛乳を注ぐ莉音を横目に、礼央はジャケットを脱いだ。
「…せめてアイスコーヒーとかにできなかったのか」
「礼央、コーヒーは苦いと砂糖3杯入れるくせに格好つけないでよ」
「…」
「僕らの成功に」
グラスを受け取り、礼央はうなずいた。
本当の俺の成功は…ミュージカル・エリザベートのトート役に選ばれた時なんだけどな…と思いながら。
「乾杯」
「乾杯」
「…礼央さあ、腰に手を当て上向いて飲み干すのやめてくれる?」
「牛乳の正しい飲み方を知らないのか」
「正しい飲み方はねー」
莉音は一口飲むと、グラスをテーブルの上に置いた。
そして礼央に近付くとキス。
いわゆる口移し。
「…この飲み会は美味しくない。生温くなり不味い」
この男、キスされてもただ牛乳の味を語るだけ。
礼央が何を考えているか莉音にはわからない。
が、そのミステリアスさが良いんだ。
自分がキスしても平然としているところが、普通でないところが。
「泊まっていくね」
「はいはい」
礼央は莉音を拒まない。
ラブコールは断る。
キッパリと断る。
キモいと言われる。
しかし、そう、身体の関係は拒まない。
身体と心は別物主義。
シーツの上にバスタオルを敷き詰め、2人は身体を重ねた。
「…礼央、疲れてるでしょ。僕が上になる」
「大丈夫か?」
「好きだから平気」
莉音は手を添えて礼央を自分の中に導き、腰を落とした。
この対位は一気に相手を深々と受け入れることになる。
「…つっ」
「痛い?」
「少し…でも好きだから耐えられる」
…君は言ってくれないね、好きだとは。
こうして1つになっていても。
「うっ」
腰を持って身体を揺すぶられ、痛みと快感が入り混じった感覚に声が漏れる。
声が外に漏れないよう自分の手で口を塞ぎ、突き上げてくる礼央の動きに莉音は耐えた。
熱い…熱いこれを受け入れられるのは僕だけ。
だけど
礼央が自分のものになったと思えない。
何度告白したって…断られているから。
ただただ僕たちはSEXしているだけ…。
そこに礼央の感情は存在しないんだ。
…でもいつか、好きだと言わせたい。
「あっ!」
「んっ、あっ、礼央、何?」
「牛乳の残りを冷蔵庫にしまってない」
「今言う事じゃないでしょ!あっ、動かないで、起き上がらないで、まだ入ってる!痛い痛い痛い。やめろって、バカ!」
…こんなんだけど、あきらめないぞ。
礼央を堕としてやる、
事務所にも認めさせ、堂々と恋人同士になってやる。
僕は美しく生まれてから、今までふられた事がないんだ、礼央以外に!
やっちゃってるけどね!
続く
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