私の名はハヤト=ライデンである。ロザリア帝国ライデン社の会長にして主任設計士でもある。我が社の功績により帝国の近代化は恐ろしい速度で進んでいる。これも我が手腕の成せる技。
と、前置きは良いか。私には秘密がある。それは転生者であることだ。いわゆる異世界転生だな。私は日本で工学博士として教鞭を振るっていた。いや、違うな。小さな頃から兵器に興味があり、それが長じて工学博士となった。兵器開発に工業の発展は必須だからだ。しかし、平和な日本で私の趣味を活かせる場所などなく、才能も乏しく三流大学で臨時講師をする程度。満たされない毎日に嫌気が注してきた頃、とある朝だったか。気付けばこの世界に居たのだ。
昨今流行りの異世界転生、最初は驚いたものだ。まさか自分が当事者になるなんてな。私は自分の置かれた状況を理解すると早速行動に移った。あいにくチート染みた特典などは何一つ無かったが、私の頭には兵器と工業の進化の過程が詰まっている。これを活かさない手はない。
幸い言語面は特典なのか通じたため調査は簡単に終わった。マスケット銃だと!?ではせいぜい戦列歩兵の時代ではないか!中世から近代の中間辺りの文明レベル!しかも仮想敵国は魔法文明!?魔法の程度がわからないが、これでは負ける!私の身も危ない!ではどうするか!
答えは簡単だ、技術革新を加速させれば良い。技術は長い長い試行錯誤の末に発展する。だが私の頭には答えがあるのだ。基礎は怠れないが、それでも飛躍的な技術革新を促せるに違いない。そこで私は先ずマスケット銃ではなくボルトアクション式ライフルの設計から始めた。趣味が高じて大まかな機構は頭にある。マスケット銃があるなら、多少は工業も発達していると予測できたしな。幸いこの世界にはドワーフが存在しており、やはり鍛冶を生業にする種族だった。私は彼等の里を訪ね、その中の数人が私の設計図に興味を示し、試作させてみるとあっさり完成した。流石はドワーフ。
これで感触を掴んだ私はドワーフの協力者達とライデン工業を設立。早速ボルトアクションライフルを帝国軍に売り込むと、予想以上の反響があった。まあ当たり前だ。数百年は未来の代物だからな。
もちろん銃だけでなく火砲、航空機、艦船なども比較的構造が簡単なものを選んで設計。それに合わせて帝国の重工業の発展を促すため工作機械などの理論や設計図もどんどん売り込み、今となっては帝国最大の大企業に成長した。だが、やはり数百年の過程をすっ飛ばした弊害はあちこちで現れ、帝国は既存の装備更新と重工業および付属した軽工業の発展に重きを置いて新兵器の開発に消極的となった。如何に大国であろうと、20年程度で近代化を成し遂げるのは無理があったか。ボルトアクションライフルも悪くはないが、機関銃、そしてサブマシンガン、アサルトライフルへと発展させたかったが。
私は溢れる制作欲に耐えられず、サブマシンガンMP40を試作した。だが帝国からの反応は薄い。理解はできるが、やはり作ったからには使いたいのが技術者の性。もちろん私に荒事なんて無理だし、軍はマスケット銃からボルトアクションライフルへ移行したばかりで興味が薄い。どうするか。
そこで目についたのが、シェルドハーフェンである。帝国の暗黒街だけあって、一気に近代化して銃が普及した。まあ、使い道が多いんだろう。怖いから聞けないが。私は試作品を古参のドワーフ経由でシェルドハーフェンに流してみた。知的好奇心に負けてしまった形になるが。
すると直ぐに実戦データが届いて有用であることが証明された。
素晴らしい!私の制作意欲と知的好奇心を満たせた!しかも死んだのは犯罪者!心も痛まない。こんなに良い場所が他にあるか!よし、早速試作品の制作を始めよう!そして、どんどん暗黒街へ流すのだ!
後に私の試作品はもちろん、私自身をも利用して正規軍より遥かに近代化された私兵集団を組織することになる少女が居るなど、当時の私は知る由もなかった。